六 月


 1日 更衣(ころもがえ)尖り乳房をまぶしめり

 2日 虹二重人生やり直したくなり

 3日 目鼻立ち隠すがに夏帽深し

 4日 蟾蜍(ひきがえる)手を突き詫びを述べてをる

 5日 まみちゃんはね蛍に生まれ変ったの

 6日 冷麦や話し残せしこと数多

 7日 豆腐売り呼び止め心太を買ひ

 8日 風通ふ白磁の皿のさくらんぼ

 9日 雷激し肩を怒らせ市電過ぐ 

10日 岩に砕け散る白波や雲の峰

11日 少女二人地べたに座りゐて裸足

12日 傍線と書き込み多き書を曝す

13日 十薬やここは太宰の入水の地

14日 父の日や父の遺影と留守居する

15日 少年の宝でありし蛇の皮

16日 夕立や街路たちまち縮緬皴

17日 太宰忌や心酔といふ酔ひありき

18日 言ふべきや否やに迷ふ端居かな

19日 蛇首に乳房あらはなシモネッタ〔注1〕

20日 泡盛や続くボタンの掛け違ひ

21日 ギロチンや薔薇にとどめし王妃の名

22日 茄子の紺極まり悲しみ深きかな

23日 目を病んで文字かすれ行く梅雨湿り

24日 梅雨長し少年の日の下駄占ひ

25日 尾鰭つきさうな恋して昼寝覚め

26日 紋どころかざす時分や雷兆す

27日 蟻の列勝手口より上がり込み

28日 余呉湖畔目元涼しき人に会ふ

29日 黒日傘かざすかひなの白さかな

30日 老鶯の遠音に惚れる露天風呂

    〔注1〕1476年、23歳で没したフレンツェ名家の貴婦人の名。はだけられ、あらわとなった乳房と胸元には
      自分の尻尾を咥えるに至っていない蛇が胸を飾っている彼女の肖像画。
      ピエロ・ディ・コジモの1485~1490頃の作。


 

 

 








240601


平成24年度

一日一句 365句

   
太田 康直 さん