七　月

　１日　膵てふ字覚えしよりの梅雨冥き　　　　　　　　

　２日　舌垂らし風鈴ぐうの音も出せず　　　　　　

　３日　遠き日の思ひ烟るや心太　　　　　　　　　

　４日　籐寝椅子いつしか手の書落としけり　　　　

　５日　日焼けせし二十歳の海女の肌の艶　　　　　

　６日　くちなしや壁に耳ある独り言　　　　　　　

　７日　軒低き老舗の日除け並ぶ路地　　　　　　

　８日　子返りの傘寿(さんじゅ)翁(おきな)や浮いて来い〔注１〕　

　９日　吊忍原節子似のプロフィール　　　　　　　

１０日　蚊遣香真っ直ぐに立ち寂しさよ　　　　　　

１１日　蝉穴やわらしべ挿せど動かざる　　　　　　

１２日　髭面の父を従へ祭の子　　　　　　　　　　

１３日　縁台や煙草盆置き団扇置き　　　　　　　　

１４日　七十路の変身願望アロハシャツ　　　　　　

１５日　草いきれ少年の日を匂はせて　　　　　　　

１６日　ローカル線無人駅裏蝉時雨　　　　　　　　

１７日　向日葵や一人になれば弱き人　　　　　　　

１８日　暑気払ひとて空酒を独り酌む〔注２〕　　　　

１９日　沖遠く夜泳ぎ出て寂しさよ　　　　　　　　

２０日　赤褌少年の日の川泳ぎ　　　　　　　　　　

２１日　波乗りの少女や黒き髪の濡れ　　　　　　　　

２２日　絶妙に胸をはだけをる水着　　　　　　　　

２３日　夏祭浴衣の娘らどっと降り　　　　　　　

２４日　風呂上り裸でくすぐり合ふ二人　　　　　　

２５日　ひとりばえの今年も良い子茗荷の子　　　　

２６日　縋るもの何もなき身やのうぜん花　　　　　

２７日　夏の夜の夢に電話の鳴り続け　　　　　　　

２８日　空蝉や背に一太刀を浴びてなほ　　　　　　

２９日　テラスにて佇む少女晩夏光　　　　　　　　

３０日　ドラム缶の風呂も味はひキャンプ果つ　　　　

３１日　短夜や両手足のたが外し寝る　　　　　　　

　〔注１〕「浮いて来い」はれっきとした夏の季語で、子どもの水遊びの道具。別名、浮き人形。
　〔注２〕肴やつまみなしで飲むお酒。