2日 赤のままままごとめきし老いの思慕〔注2〕
3日 山国を捨てざりし明蛇笏の忌〔注3〕
4日 猫じゃらし触れてくれろと言ふてをる
5日 稲刈り機蝗の飛ばぬ田を進む
6日 隠れんぼ昔の稲架は高かりき
7日 園児らで賑はふさつま芋畑
8日 灯火親し机上にいつも血圧計
9日 讃岐伊予土佐阿波逆打秋遍路
10日 名品のくびれ正しき瓢かな
11日 流れ星こじれしことはこじれしまま
12日 捨て案山子へのへのもへじのおどけ顔
13日 栗の毬剥きし毬栗頭の子
14日 友とゐてなほ人恋し秋の暮
15日 目を病んで背文字のかすむ書架の冷え
16日 竹の春嵯峨野祇王寺二尊院
17日 胡桃二つ結んで開く手の運動
18日 父偲ぶよすがや松茸土瓶蒸し
19日 長き貨車のろのろと過ぐ大花野〔注4〕
20日 頬杖を突きて秋思を抱へ込み
21日 もの思ふことなどさらさらぬくめ酒
22日 平家武者横笛を吹く菊人形
23日 夕霧や山門出でし鐘の音
24日 秋の夜のカード占ひきりもなや
25日 秋深し望郷の念といふ麻薬
26日 我思ふ故に身に沁むもの忘れ
27日 電線を消してスケッチ柿の里
28日 釣瓶落しいつまで続く立ち話
29日 仰がれず蔑まれずに秋暮るる
30日 紅葉かつ散る遠来の客二人
31日 行く秋や舌一枚に癖七つ
〔注1〕共同募金に協力のボーイスカウトやガールスカウト。
〔注2〕秋に紅色の粒状の小花を穂状につける。その粒々に見える赤い花が祝い事に用いられる赤飯に似ていることからの命名。ままごと遊びにもよく用いられる。
〔注3〕飯田蛇笏の忌。〔注4〕「花野」は秋の季語で、秋の草花の咲き満ちている野原のこと。
241001
平成24年度
一日一句 365句
太田 康直 さん