壱 月
1日 ゴーギャンの絵の疑問符や
2日 二日はや『酔いどれ天使』となりにけり〔注2〕
3日 斗酒なほ辞せぬ身にして餅嫌ひ
4日 初みくじ縁なき縁談吉とあり
5日 初電話お国訛りの懐かしき
6日 老いらくのあどけなき恋良寛忌〔注3〕
7日 君知るや薺打つ音囃す唄
8日 昭和っ子せーので回せり喧嘩独楽
9日 托鉢の僧と会ひけり枯野中
10日 平成や名のみとなりし鏡割り
11日 癒えし身にほっと安堵の実千両
12日 竹馬やクラス名簿の物故欄
13日 冬の旅ボタンを押せば開く列車
14日 成人式市長の祝辞長々と
15日 行きずりにどんどのお神酒振舞はれ
16日 晩年の孤独地獄や枯芭蕉
17日 貫一のセリフ聞きしか寒の月〔注4〕
18日 焚き火に来てまず背を炙り前炙る
19日 見栄捨てて常用してをるちゃんちゃんこ
20日 小銭入れと手袋茶房に忘れ来し
21日 皸の十指に泣きし銃後の子
22日 大寒や月も凄みを利かしをり
23日 靴下も五指あるが良し寒昴
24日 外国の人不思議がる大マスク
25日 学成らず財成らず老い初天神
26日 鼻先を噛りに来しか鎌鼬
27日 雪激しみるみる物の形消し
28日 狼の昔を夢見山眠る
29日 このたびはどうもどうもと火事見舞ひ
30日 冬萌や郵便受けは今日も空
31日 炉話も途絶え辛口地酒酌む
〔注1〕ゴーギャンの絵に『我々はどこから来たか?我々とは何か?我々はどこへ行くのか?』という哲学的な内容の
題名のものがある。
〔注2〕『酔いどれ天使』は黒沢映画の題名
〔注3〕良寛の忌日は1月6日。禅僧良寛と貞心尼とは40の年齢差を乗り越え、良寛が74歳で死ぬ日まで恋を貫いた。
〔注4〕「来年の今月今夜、再来年の今月今夜、十年後の今月今夜のこの月も、僕の涙で曇らせてみる」旨の捨てゼリフ。
250101
平成24年度
一日一句 365句
太田 康直 さん