二 月
1日 春隣客を呼び込むチンドン屋
2日 出てすぐに老いの湯冷めやハハハクション
3日 年の豆三度も数へ間違へり
4日 春立つや寄り添ふものは影ばかり
5日 東風(こち)受けて耳輪大きく揺れてをり
6日 お駄賃に初音を聞きし遠出かな
7日 受験子の列公園を横切りて
8日 ネクタイの色の冒険春浅し
9日 春めくや絵手紙にも明るい色
10日 梅活けて命拾ひし癌病棟
11日 暗記せし歴代の名や紀元節
12日 春耕や跡取り跡を継がぬ畑
13日 腰痛の膏薬切らす余寒かな
14日 春の夜や流れて散ずクラス会
15日 隠居てふ住まひを見舞ふ霾(よな)ぐもり〔注1〕
16日 風船や窓ごとにある幸不幸
17日 追ひ越したき春の歩みやのろのろと
18日 しゃぼん玉同じ形の家並ぶ
19日 京に来し証(あかし)に棒鱈料理食ふ
20日 モジリアニの裸婦の細さや冴え返る
21日 老いらくの思慕ほろ苦き蕗のたう
22日 青空や喜び色の白木蓮
23日 人影に怯える蝌蚪の小さな国
24日 長き貨車吸ひ込み山の笑ひをり
25日 ここよりは外つ国の海鳥雲に
26日 楓の芽我が目疑ふ赤さかな
27日 辛口の地酒がよろし木の芽和
28日 何か物足りぬ思ひや二月尽
〔注1〕黄砂によるくもりのことで、春の季語。