四　　月

　１日担ぐこと好きな友あり四月馬鹿

　２日世は四月世を忘れ世に忘れられ

　３日杉花粉黄砂ＰＭ２.５

　４日生涯に仲人七度桜漬〔注１〕

　５日春の海余生静かに波立てず

　６日ぬくいなもすらすら言へる尾張弁

　７日決断は遅くとも良し菜種梅雨

　８日虚子の忌や名を除いたり去られたり〔注２〕

　９日遠足の列や伸びたり縮んだり

１０日若布干す師崎漁港に魚市場

１１日かげろふへ杖つき入り行く老婆

１２日月おぼろ明日とも知れぬ命惜し

１３日青春の甦る日や啄木忌

１４日今は名を聞くのみに悲し母子草

１５日春の夢帯解くそぶりまでを見し

１６日閃くに任せてひねる日永かな

１７日遍路道縦に三つの影法師

１８日春眠や枕代りの広辞苑

１９日父子草互ひにぎこちなかりけり

２０日小綬鶏やチョットコーイと老い招く〔注３〕

２１日千枚田打つ人遠く空近し

２２日春愁や十指を膝の上で組み

２３日葱坊主嫌ひな才女ぶる芸人

２４日齢八十命を惜しむ朝寝かな

２５日春雨や音湿りゆくししおどし

２６日春野行くあてあるごとくあてどなく

２７日逝く春や真っ先に読む蓋棺録

２８日人恋し誰(た)を連れ出さん春満月

２９日知るやハニホヘト世代を昭和の日〔注４〕

３０日恐ろしき句の閃くや春の闇

〔注１〕結納や婚礼など、慶事の席に出す桜の花びらを浮かべた別名「桜湯」
　　　　のことで、春の季語。

〔注２〕杉田久女、日野草城、吉岡禅寺洞を理由も告げずに除名。水原秋桜子
　　　　ほか新進気鋭の弟子多数に去られた。。

〔注３〕小綬鶏は「チョットコーイ、チョットコーイ」と鳴くと言われている。。

〔注４〕戦時中「ドレミファソラシド」が敵性用語とて禁止され、「ハニホヘトイロハ」
　　　　を叩き込まれた世代。

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