十一 月
1日 爽やかや無用の長物スマートフォン
2日 枯れ草や繊維の街の鋸屋根
3日 文化の日挑めりネット断食に〔注1〕
4日 銀杏散る丘の上なる美術館
5日 達磨忌や凡夫は手足伸ばし生き〔注2〕
6日 菊薫る金婚の日を迎へけり
7日 難病も癒えきっぱりと冬に入る
8日 鳰(にお)は湖(うみ)に我は憂き世に浮いてゐる
9日 留守詣数多の神を梯子する〔注3〕
10日 白菜を漬けて楽しき朝餉かな
11日 霜の夜や仮面高血圧の怪
12日 ちょっぴりあるおじんの意地や花八手
13日 街路樹の落葉を掃くを日課とし
14日 地図広げ旅を楽しむ炬燵中
15日 句を詠みに神社に出向く七五三
16日 おのろけに相槌を打ち冬ぬくし
17日 日向ぼこ浮世の嫌なこと忘れ
18日 木の葉髪詠めぬおつむとなりにけり
19日 いろいろな匂ひ立ち込め路地に冬
20日 ありのまま裏表見せ紅葉散る
21日 波郷忌や我も戦後の肺患者〔注4〕
22日 ケネディ忌娶りし年の同じ月〔注5〕
23日 厠には裸電球一葉忌
24日 シューベルトの辻楽士真似冬の旅
25日 「潮騒」の島に碑のあり憂国忌〔注6〕
26日 味噌を搗き大根干しし戦後かな
27日 旅心定まる宿の褞袍(どてら)かな
28日 昔見し障子明かりの思惟菩薩
29日 あら霰素っ頓狂な妻の声
30日 初時雨草鞋を履いて旅したき
〔注1〕一定時間、意識的にインターネット環境から遠ざかること。
〔注2〕陰暦10月5日、禅宗の始祖。9年間面壁座禅した。
〔注3〕「留守詣」が季語。陰暦十月、全国の神々が出雲に集まる。その留守を守る神として
は、恵比寿様、お竈様、弁天様、金毘羅様、さらに道祖神様等がいらっしゃる。
〔注4〕石田波郷。人間探究派の一人。、結核療養所内で逝去。
〔注5〕50年前の11月22日、凶弾に倒れた。当時、長女キャロラインちゃんは5歳で、世界
中の涙を誘った。
〔注6〕三島由紀夫の忌日。昭和45年、「盾の会」の会員数人と自衛隊東部方面総監部に
乗り込み割腹自殺。三島作品「潮騒」は吉永小百合、薬師丸ひろ子、山口百恵等の
主演で映画化された。神島に「潮騒の地」の碑がある。
251101