今回のオーロラ見物は、フィンランドの北方のアカスロンポロ(Akaslompolo)という寒村で行なった。ここは北緯67.6度に位置し、北極圏内にある。オーロラ・マニヤの家内がインターネットで調べた挙句選んだ場所である。ヘルシンキから1時間30分北へ飛びキッティラ(Kittila)という空港に行き、そこからバスで小一時間西に向かうと人口400人足らずの集落に着く。アカスロンポロと言うのは1平方キロ弱の湖水の名前に由来する。湖畔の森の中には別荘や観光客向けに数多くのコテージがある。以下は、その一つを借りて家内と自炊しつつ、3週間ばかりオーロラを追い求めた日記である。
3/5(火)晴
11:55 フィンランド航空(Finnair)AY80/R便は中部国際空港を定時離陸。シベリア上空を順調に西進。
約10時間の飛行の後、定刻より15分ほど早く現地時間15:00ヘルシンキ空港に到着。
飛行中、クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)主演のTrouble with the Curveを観る。視力の衰えた老プロ野球スカウトの物語。老人の頑固さを好演している。身につまされる話だ。もう一本は邦画で、高倉健主演「あなたへ」を観た。愛妻を亡くした老刑務官が妻の遺骨を故郷の海へ散骨に行く物語。さまざまな人々との出会いに胸を打たれる。
ヘルシンキ空港の入国審査の係官が、丁寧と言うかゆっくりと言うか、時間をかけて審査をする。乗り継ぎで急いでいる客は気が気でない。数日後われわれに合流することになっている、孫娘の場合、乗り継ぎに1時間程度しか時間がない。気がかりだ。
われわれは、20:15分発のキッティラ行きの便まで5時間余りの待ち時間がある。家内が売店でバゲットサンドウィッチ(ハム・キュウリ入り)を買ってきた。昼食にする。モーパッサンの短編集の英仏対訳版を読みながら時間をつぶす。
キッティラ行きの便が、ヘルシンキを飛び立ったのは定刻より30分遅れの20時47分であった。22:00 キッティラ空港到着。ここは国内線扱いだから荷物さえ受け取れば自由に出てよい。外へ一歩出た途端寒さに震えあがる。マイナス16℃、小雪が舞っている。大型バスが何台か待っていた。その中にアカスロンポロの表示を付けた一台を見つけ
た。
運転手が車外に出てにこやかに迎えてくれた。ユラクセン・ヨプー(Yllaksen
Yopuu)で泊ることになっていることを伝えると、「承知しました」との返事。安心してバスに乗り込む。
客は多くない。途中からわれわれ二人だけになってしまった。雪明りで見ると道路の両脇には森林が広がっている。運転手は慣れたもので雪道を時速80キロくらいのスピードで飛ばしていく。
空港を出てから45分後、運転手がバスを停め、荷物を道路わきへ降ろしてくれた。運転手にユラクセン・ヨプーの受付事務所はどこか尋ねるが、施設の配置図の書かれた看板を指さしただけで、行ってしまった。後で分かったことだが、そのような事務所あるいは一般ホテルにあるフロントはなく、前もって知らされた番号のコテージを探し、入ればいいのだ。一番の痛手はここで通用する携帯電話を持ち合わせていなかったこと
だ。今や生活の必需品だ。
もう真夜中だ。人通りは全くない。一番近くにのコテージに明かりついていたので、ドアを叩いた。反応なし。やむなく、家内と荷物を残し私は近くの居酒屋らしい店に駆け込んだ。
店内には10人ばかりの客と若い女性従業員が一人いた。その従業員に当方の窮状を訴える。
すると、彼女は客の一人を呼び私を助けるように言ったらしい。彼が席を立って私について来いと言って外へ出た。よく分かる英語で、ユラクセン・ヨプーのオーナーとは釣り仲間だと言っていた。電話でオーナーに連絡してくれた。すぐオーナーが営業用のワゴンで目の前に現れた。驚いたことに車には既に家内が乗っていた。実は家内の方が早くオーナーを呼ぶことに成功していた。最初戸を叩いたコテージに滞在していた女性が出てきて、オーナーに電話してくれたのだそうだ。見知らぬ人々の親切が身に染み
た。おかげでわれわれは凍死を免れた。
車で1分もかからず、われわれのコテージに到着。中へ入ると、暖房が利いており、おまけに暖炉では薪が勢いよく燃えていた。われわれを迎える準備がなされていたのだ。
オーナーはヴェーサ・カウラーネン(Vesa Kaulanen)と言い、妻のマリヤ(Marja)と二人で8軒ばかりのコテージを切り盛りしている。彼は宿泊業を継いだ二代目であ
る。先代は牧畜業を営んでいたのだが、そのうちに家畜小屋を改装し宿泊用のコテージにしたのだそうだ。ヴェーサはもともと大工をしていたが、今では宿泊業を専業にしている。われわれの入ったコテージは彼が自分の手で建てたと言っていた。彼のコテージはアカスロンポロ南側湖畔の林の中に点在している。
コテージの間取りは概略次の通りだ。1階に10畳くらいの居間兼ダイニングキッチンがある。自炊できるようになっていて、電熱プレート4基、電子レンジ、冷蔵庫、自動皿洗い機など完備している。フィンランドらしいのはトイレ兼シャワー室に隣接してサウナ部屋があることだ。サウナは好きな時に加熱して使うことができる。洗濯物や濡れたスキーウエアーを乾かす乾燥室も玄関脇に備えてある。
階段を登り2階へ上がるとツインベッドの寝室が2部屋とシングルベッドの寝室が1部屋ある。5人まで泊れるようになっている。ただこの2階の部屋は屋根裏部屋と言うべきで、枕元では立って歩くことができる高さがあるが、足元の方は天井が低くなり体を折り曲げないと行くことができない。滞在中何度も頭を天井にぶつけた。
日付が変わり(3月6日)2時ころ、家内がオーロラの動きを見つける。あわててカメラをセットし屋外へ走り出る。寒気のため鼻毛がツンとする。これは気温がマイナス十数度以下になると起きる現象だ。驚いたのは光の汚染のひどさである。インターネット情報では、当地は人工光線の邪魔が少なくオーロラ撮影の適地とあったが、大嘘である。あちらこちらでサーチライトのようは光の柱が空高く伸びている。がっかりであ
る。
その1
杉浦 久也 さん
湖畔に邪魔な光(家内撮影/以下Mと略す)
3/6 2:30 (隣のコテージの上にうっすらオーロラがかかっていた)
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250408