フィンランド・オーロラ見物日記

その3

杉浦 久也 さん

37日(木)快晴

 730起床。テーブルの上に家内のメモがある。見ると「昼まで起こさないでください」と書いてある。了解。夜オーロラの監視役は交代で行うと口では言っているが、実際はほとんど家内に任せきりである。したがって家内は徹夜の連続となる。家内は、「大枚をはたいて北極圏まで来ているのだから、夜眠ろうと思うことが間違いです」と言うのが口癖だ。

 牛乳を飲み、常備薬を服用する。

 8時ころカメラを持って湖水に向かう。ちょうど日の出だ。4050分くらい湖面を歩いた後コテージに戻る。ラジオで音楽番組を物色していたら、家内がラジオの音がうるさくて眠れない、とぶつくさ言いながら階段を下りてきた。



コテージ付近の日の出

 朝食:目玉焼き、黒パン、レタス、チーズ、コーヒー、牛乳

 食事を終えると急に眠気を催す。モーパッサンの短編を読みながら眠ってしまった。

 13時ころサウナに入る。

 15時ころから再び湖面を含む近隣の散策に出る。家内も同行したが、途中で膝の痛みを訴えコテージに引き返す。私は単独でしばらく歩いた。湖面から東岸の森に入り、時計回りにスキートラックを歩く。実はスキートラックを歩くことはスキーヤーの邪魔になるので禁止になっている。しかし他に歩く道がないのでやむを得ない。スキートラックは総延長が数十キロに及び、大型機械で毎日整備されている。

16時前コテージに戻り、ジャガイモの皮むきをする。包丁と小さなナイフが備え付けてあるが、いずれも刃が丸くなっていて切れない。研ぐ道具もない。スーパーへ行きサンドペーパーを買ってきて、研いだら何とか切れるようになった。



真昼でも太陽は低い



スキートラック整備専用車

 17時過ぎ夕食:ジャガイモ+人参スープ、レタス、ソーセージ(大)、パン、ビール

 昼間は快晴だったが、日が暮れるにつれ曇り出し、星ひとつ見えない。致し方なし。ベッドにもぐる。

 テレビは10チャンネルほど見られるが、英語番組と言えばハリウッド映画くらいだ。ニュースが入らず、世の中の動きが分からない。

 日付が変わるころから粉雪が降りだした。踏んだり蹴ったりだ。何年か前、アイスランドで一週間雪に降られた苦い経験が頭をよぎる。4:00ころスコッチの湯割りを飲み憂さ晴らし。家内は太極拳指導員資格試験の勉強中だ。

 テレビをいじっていたら、ラジオ番組も放送していることを偶然見つけた。なんとBBC放送だった。美しい英語に感動を覚える。

 トイレに起きる度に外へ出て空を見上げるが、厚い雲が覆いつくし、オーロラは絶望的だ。

 

38日(金)昼間快晴、夜曇り

8:00起床

 朝食の支度:コーヒーを沸かし始めたが、量が多すぎたためか濾紙の上から湯とコーヒーがあふれ出し大慌て。そもそも家内がエスプレッソ用の粉を買ったのが間違いだ。粉が微細なため濾紙が目詰まりを起こしてしまう。量を減らしてやり直し。

 卵4+牛乳+バターでスクランブル・エッグを作る。わりにうまくできた。これにレタス、黒パントーストで出来上がり。デザートにはリンゴ、バナナ。来月で81歳になる後期高齢者にしてはよく食べる。自分でも感心するくらいだ。

 10:30頃から一人で散策に出かける。湖面では既に大勢がスキーを楽しんでいる。小さなそりを押しながら、初老の女性が来た。Good morning!と大声で挨拶する。愛想よく返事をしてくれた。どこから来たのか尋ねると、ここから数キロ北に住んでいるとのことだった。どの季節が一番いいか聞くと、このあたりでは断然9月がすばらしい、と言っていた。理由は聞かなかった。

 今日は初めて湖面を北に向かって歩く。パラグライダーに引っ張らせて湖面を滑る若者がいた。湖岸沿いに大きく左に回り南に向かって行くと、キャンピングカーが何十台も止まっている場所に出くわした。近くへ行って見ると、車の中へ電源の供給を受けながら生活できるようになっている。若いカップルに出会う。ヘルシンキの近くから来たという。4月初旬までここで過ごす予定とのことであった。記念に写真を撮らせてもらった。




キャンピングカーでヘルシンキから来たと言うカップル

 コテージへ戻ると、家内がサウナから出たばかりのところだった。サウナ室内の温度が90℃を示している。私も早速サウナに入る。すぐ汗が噴き出す。シャワーを浴び、ベッドで仮眠。

 コテージの案内書に洗濯について書かれている。スキー管理室に洗濯器がそなえてあり、各自のコテージの鍵で管理室を開け使用できるとある。家内が行ってドアを開こうとしたが、びくともしないと言う。私が出かけて、力いっぱいひっぱったらドアが開いた。

 さて、洗濯機を見ると指示がすべてフィンランド語である。電源スィッチのほかはさっぱり分からぬ。すぐオーナーの家へ走り、助けを求める。近いうちに来て教えてくれる、と言う。悠長なものだ。

 食糧調達にスーパーへ。ちなみに買った品物の値段は次の通り:

キャベツ1/21.20/マッシュルーム200g 2.65/ブロッコリー3001.69/玉ねぎ7002.19/カリフラワー500g 2.99/鶏肉 3505.53/クリームチーズ180g 1.85/ソーセージ4本入りパック6.99€。

1€約120円とすると、全体に高い感じがする。

 夕食:味付けチキンソテー、スモークサーモン、人参、ブロッコリー、パン+クリームチーズ、コーヒー

 空を見上げると雲間から星が瞬いていた。オーロラの望みが出て来た。

 一眠りして起きる。「また雲が出てきたからゆっくり休んでください」と家内。がっかりだ。再びベッドにもぐりこむ。

 23時ころ起きると、雪はやみ星空になっていた。しかしコテージから見る限り、オーロラの気配なし。

私は一人で、湖畔まで出向いてオーロラの有無を確かめる。地平線近くではあるが、確かにオーロラの青白い帯がかかっている。急いでコテージに戻り、オーロラの出現を告げ、カメラを担いで湖面に急行する。

 2307撮影を開始する。



西地平線低くオーロラがかかる



北の空にかかるオーロラ

日付が変わり(39日)2時近く、オーロラがやや活発な動きを見せる。







                           (M撮影)

392時ころからやや活発に

 この頃になると、気温が急激に下がり始めマイナス25℃を記録する。レリースの延長コードが固くなる。無理をすると折れそうだ。2:10頃撮影を終了し、コテージ戻る。外気温はマイナス31℃になっていた。このくらいの気温になると指先の感覚が鈍り、コテージへ帰って来ても、ドアの鍵をうまく操作できないことがある。

 部屋に入ると直ちにウイスキーの湯割りで体を中から温める。家内はもっぱら生姜湯を飲んでいる。



マイナス31℃の湖面から帰った家内


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