フィンランド・オーロラ見物日記

その5

杉浦 久也 さん

311日(月)昼間快晴

 800朝食:目玉焼き、野菜シチュー、黒パン、リンゴ、コーヒー+牛乳

仮眠

 1255湖面へ散策に出かける。氷に穴をあけ釣りをしている人に出会う。「釣れましたか」と声をかける。「全然釣れない」との返事。釣り師の横に氷に穴をあける道具が立っている。氷の厚さを尋ねると、約1メートルとのことであった。30-40センチの細い竿で釣っているところを見ると、日本で見るワカサギ釣りそっくりだ。


釣り師

 湖面の北半分を回りコテージ近くへ来たとき、珍しく歩いてくる男に出会う。声をかけると気さくに応じてきた。フィンランドとの国境近くのスエーデン領出身で名をマチアスだと自己紹介した。家族はと訊くと、ガールフレンドならいる、と答えた。札幌や長野の冬季オリンピックのことをよく知っていた。別れるとき、互いに右手の手袋を脱ぎ、握手した。心温まる出会いだった。



                    スェーデン人のマチアス君

1415帰宅。サウナに入る。

 今夕、孫娘の沙弥が来ることになっている。今春大学を卒業し、四月からは会社務めだ。何を思ったかわれわれ老夫婦と2週間過ごしたいと言う。18時過ぎに到着予定だから、それまで一眠りする。

 1830ころからバス停付近で待つ。ところが19時になっても一向にバスが来ない。ヴェーサからキッティラ空港に問い合わせてもらおうと、彼の家へ急ぐ。その間家内をバス停で待たせておいた。ヴェーサの家にたどり着き、呼び鈴を押すも返事なし。車もないことから、みんなで外出中らしい。

 やむなくバス停に引き返す。家内の姿もない。もしやと思ってコテージへ急いで戻る。やれ嬉や、沙弥が無事着いていた。飛行機が遅れたとのことだった。こんな場合、携帯電話の必要性を痛感する。

 早速3人で夕食:家内の得意料理のオニオンスープ、鶏のもも肉ソテー、パン、サラダ。孫とビールで乾杯。

 21時ころからオーロラ撮影の準備にかかる。湖面へ出てオーロラの出現を待つ。北の地平線上にかすかな気配が感じられる。カメラで確かめるとオーロラだった。但しきわめて弱い。私は、家内と沙弥を湖岸のあづまや付近に残し、単独で湖面を横切り北岸に向かった。それは、北岸に建つコテージ群を前景に入れてオーロラを撮りたかったからだ。

 ところが、オーロラはその後消滅してしまった。がっかりして帰る。カメラや三脚に霜がつき真っ白になった。午前零時の外気温マイナス30℃。帰途、寒気で手が痛くなり、幾度も立ち止まってはポケットに入れたカイロで手を温めながら、何とかコテージにたどり着いた。

 300ころオーロラを諦め床に就く。

 

312日(火)快晴 800 

       マイナス32/ 15:15 マイナス11.8/2305 マイナス29


 7:00起床 朝食の支度を始める。先ず包丁研ぎから。昨夜作った野菜スープが上出来だったから、今朝も同じレシピーにする。時間をかけてジャガイモを柔らかく煮るのがコツだ。

 8:00頃家内と沙弥起床。家内が目玉焼きを作る。それにパン、野菜サラダ、コーヒー、牛乳で朝食。

 沙弥を伴い、スーパーへ買い物に。定番の黒パン、牛乳、果物、等々買い入れる。

 先回の買い物でも気になったが、レシートの中にわけのわからぬ項目がビールの下に印字されていて1.20€と金額が示されている。後で判明したのだが、これはデポジットでアルミ缶を返還すると一個につき0.15€払い戻してくれる制度だ。道理でスーパーの入口に空き缶や空き瓶を持った人々が行列を作り、せっせとリサイクルの機械に投げ込んでいるわけだ。次回私も試してみよう。

 部屋に戻り仮眠。

1500ころヴェーサ宅を訪れ、孫娘を紹介する。ヴェーサの要望で、家内の撮ったオーロラのメモリーカードを貸す。彼のホームページで使用していいかと言うので、了承した。ついでに彼のパソコンを借り、長男に沙弥が無事到着して旨メールする。沙弥の方でも持参したiPhoneを使うためwi-fiのパスワードを教えてもらい、メールを送ったところ、もう返事が来たそうだ。便利な世の中になったものだ。

 ヴェーサ宅を辞去しようとしていたらマリヤが来た。例によって笑顔を絶やさない。彼女は、「本式のサウナのサービスを提供しましょう。貸し切りの時間をいつにしましょうか」と言って、大きなノートに日程を書き入れようとしていた。ご厚意を喜んで受け入れ、明日14451645にサウナを使わせてもらうことにした。伝統的なサウナ小屋は薪で加熱し、一度に10人以上利用できるようになっており、桟橋伝いに氷の湖に飛び込めるようになっている。ちなみに普通1時間の使用料は60€、延長1時間につき40€となっている。つまり100€(約12000円)分をただで提供してくれたことになる。感謝。

 夕食:鶏肉のクリームシチューに日本から持参した餅。変な取り合わせだが、なかなかうまい。

 仮眠

 2030頃湖岸へオーロラの偵察に行く。コンパクトカメラで試し撮りをする。北の地平線上に淡緑色のオーロラを感知。急いで部屋に戻り、家内と沙弥にオーロラの出現を伝え、三人揃って湖面に向かう。昨夜同様、二人を湖岸近くに残し、私は単独で北岸に向かう。途中でフィンランド人の若者3人に出会う。「昼間はスキーを楽しんでいるのか」と尋ねられ「昼間は寝て過ごし、夜はこうしてオーロラの写真を撮っている」と答えたら、あきれて立ち去った。よほどの奇人に見えたのだろう。

 今夜も、大きな動きはなく、部屋に引き返す。

 2330ころからやや動きが活発になる。再び湖面へ出て、撮影を開始。






                           23502359ころ



                      013ころ(M撮影)

 313日(水)200 マイナス30/800 マイナス32/1200 マイナス14.8/2320 マイナス27

 朝食:定番となった野菜スープ(私の担当)、目玉焼き(沙弥担当)、野菜サラダ(家内担当)パン、コーヒー、牛乳

 沙弥を伴い湖面を散策。約1時間湖面の北西部を半周する。

 コテージに戻り仮眠。

 14451545 ヴェーサ夫妻に招待されたサウナを楽しむ。年頃になった孫娘が3人一緒に入るのを嫌がるのではと心配したが、本人は平気だと言う。小屋は二部屋に分かれており、向かって右側が脱衣室、左側がサウナ部屋である。広さはそれぞれ10畳くらいである。サウナ部屋の中はL字型の階段教室のようになっている。長々と寝そべることもできる。完全に男女混浴だ。

 サウナ部屋の片隅にかまどがあり例の大きな石ころが熱せられている。さらにドラム缶のような大きな容器が二つ並び、一方は冷水が、他方にはぬるま湯が入っている。柄杓で体にかけるのだろう。戸口から数メートル歩けば、湖面に大きな穴があけられおり、元気な人は氷水の中へ飛び込める。われわれにはとても飛び込む勇気がなかった。

 サウナ利用は一時間足らずで終え、ヴェーサ宅を訪れサウナのお礼を述べ、コテージに帰った。



                サウナ小屋(手前の階段は湖水に入るためのもの)

 夕食:鶏肉蒸し焼き、カリフラワー、ほか

 仮眠

 2100家内の情報に従い、湖面へ。今夜は、初めからかなり高い位置にオーロラの弧がかかっている。22時ころから動きが活発になる。巨大なクラゲが傘を広げて泳いでいるようだ。23時ころには活動が終息した。一旦部屋に戻り熱い飲み物で体を中から温める。

 2350分ころ外へ出て見たが、オーロラの薄い帯が空高く伸びているだけで、ほとんど動きなし。

日付が変わり、314日の1時過ぎ(外気温マイナス30℃)まで外で頑張ったが、遂に諦めて就寝。








                           22062236

314日(木)快晴 800 マイナス31/1230 マイナス15.2/19:00  マイナス23/2240 マイナス32

 700起床

 830朝食:野菜シチュー、目玉焼き、パン、ルッコラ+レタスサラダ、コーヒー、牛乳

 仮眠

 13時ころショッピング。先ず薬局に立ち寄る。家内から絆創膏を頼まれていた。支払いの段階で、クレジットカードを忘れてきたことに気づく。あわててコテージに引き返す。再び薬局を訪れ絆創膏とハンドクリームを買う。女性店員の応対、まことに魅力的。何回でも行きたくなる。

 スーパーで買い物中の家内と孫に合流。牛肉を探していた。それらしきパックを見せて、近くにいた中年女性にIs this beef?と尋ねる。珍しく英語が通じない。やむなく両手で角を作り「もー」と啼いたら、相手も分かったらしく「むー」と啼き頷いている。「キートス」(私が唯一知っているフィンランド語で、ありがとうの意)と言って別れた。

 買った品物をコテージに置き、三人で散歩に出かける。湖面を東方に横断し、森の中に入る。右折してアカスホテリの方面に向かう。ホテルを過ぎ、大通りに出て西に進路を取り、再び湖面に降り、コテージに戻る。

 仮眠

 18時ころ、夕食。ビーフシチュー、絶妙の味だ。但し、肉がやや硬い。やはり1日くらい煮る必要がある。

 暖炉で薪を炊こうと思い立ち、火をつける。ところが煙突の不調か、煙が室内に逆流し、各部屋に設置されている警報機がけたたましく鳴りだした。ドアをたたく音がする。孫娘が応対に出る。Fire?と訊かれ、孫はとっさにYes!と答えてしまった。相手は「火事か」と訊いてくれたのだ。私が出て事情を説明し、お引き取り願った。彼は親切にオーナーへ電話をかけてくれた。

 数分してヴェーサが来た。数年前に同様のことがあったが、今夜で2度目だ、とのんきなことを言っている。二重窓を開き、何とか呼吸できる状態になった。しかし根本的な修理が必要なことは確かだ。

 2330ころ家内がオーロラ発見。徐々に活発になる。



2057縦縞が現れる

 サウナ小屋の照明が邪魔になるが、昨日招待されたこともあり、苦情を言うわけにはいかぬ。我慢してレンズを北方へ向けて撮り続ける。

 23時ころ大きな輪を描き出した。右へ移動しつつリングの縁を光らせる。



                             2204



                          2204(M撮影)

 それにしても今夜の寒さは耐えがたい。いつもと同じ枚数を着込んでいるのだが、肩のあたりに冷気がしみこむ感じだ(2240 マイナス32℃)。一旦部屋に戻り暖を取る。生姜糖湯はありがたい。

 その後、オーロラの再活動を待ったが、淡いアーチを描くのみであった。家内は午前3時まで監視を続けたが、何も現れなかった。



                                                    続  く

                                                    250412