五 月
1日 ハナミズキお空へおしゃべり届けをり
2日 生き延びて傘寿の八十八夜かな
3日 遺訓めく家憲や憲法記念の目
4日 捨てられぬ祖国であらなむ修司の忌〔注1〕
5日 菖蒲湯やをのこ三人(みたり)を育て上げ
6日 ラジオから浅草寄席や傘雨の忌〔注2〕
7日 石楠花や女人高野の小さな塔
8日 滝飛沫名に負けてをる水の嵩
9日 万緑や風にも色をおすそ分け
1O日 噴水や公園にも少子化の波
11日 母の日や我が家の紋を聞かず老い
12日 ででむしや来し方ぎこちなかりける
13日 濃く甘く重き新茶の雫分け
14日 服用を忘るる日々や青葉風
15日 子燕や顔中口にして五つ
16日 百日紅梵語学びし旧学舎
17日 年の功手抜き自在の胡瓜揉み
18日 ふっと消えし「アカシヤの花」の人今いづこ
19日 山女釣り昭和ひと桁遊び下手
20日 廃隧道抜ければ青葉若葉かな
21日 梅筵一村こぞって消え失せし
22日 戒名の腹案二三風薫る
23日 尋(と)め行きし秘湯に独り青葉木菟
24日 東海沖卯波の立ちて不気味かな
25日 樹海出て雪なきノッポ富士に会ふ
26日 清水汲み柄杓を定位置に置く
27日 午年の記念にダービー馬券買ふ〔注3〕
28日 少年の十八番(おはこ)でありし草の笛
29日 歌に酔ひし銃後の少年晶子の忌
30日 郭公や名を変へしデンタルクリニック〔注4〕
31日 夏雲や武蔵相模の国境
〔注1〕寺山修司の有名な歌に、「マッチ擦るつかの間海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや」
がある。拙句の「あらなむ」は「あってほしい」という願望を表す語。
〔注2〕浅草生まれの劇作家久保田万太郎の忌日。
〔注3〕日本ダービーは5月27日
〔注4〕別名が閑古鳥。
260501