三 月

 1日 実習服洗って畳み卒業す〔注1〕

 2日 狭き故群るる他なし蝌蚪の国

 3日 椿落つ巨星地に墜つごとく落つ

 4日 斑雪嶺(はだれね)に分け入り消えし山頭火

 5日 帰りなむいざ雁も故郷に帰る頃

 6日 啓蟄や気ままに割れる五指の爪

 7日 蛙合戦平家不戦敗の跡

 8日 春の雪はんなりと降る京の街

 9日 初恋や見せ合ふ手と手のつくしんぼ

10日 ガラス越し影で知る蝶の舞ひ姿

11日 三月や人を掠(さら)ひし地震(ない)津波

12日 尾張美濃分かつ大河や水ぬるむ

13日 洗濯物いっぱい吸ひし杉花粉

14日 種蒔きし手が合はされて祈りをり

15日 接ぎ木してトンビにタカを生ませたい

16日 魞挿せば山並み平ら鳰の海

17日 花菜道園児の列の赤い帽

18日 な鳴きそと詠まれし春の鳥が鳴き

19日 西行忌きのふで切れしパスポート

20日 げんげ田や畦にランドセルニつ

21日 春分やチチェンイツアのピラミレッド〔注2〕

22日 法螺吹くな泣き言は言へ春の星

23日 クローバの四つ葉探しに耽りしこと

24日 のどけしや春もお空で舟を漕ぐ

25日 パイプに詰め虎杖(いたどり)の葉を吸ひしこと〔注3〕

26日 酸葉(すいば)すっぱし初恋はあまずっぱし

27日 永き日やひねもす目薬射し忘れ

28日 花吹雪葬列座棺担ぎ行く

29日 タンポポや山と雲とが睦みをり

30日 お遍路や前行く人が道しるべ

31日 満天星(どうだん)の花や我が家に長寿の相


  〔注1〕農業高校に勤めでいた時目にした実体験。

  〔注2〕メキシコのユカタンの密林に栄えた古代マヤ文明の遺産。当時正確な時を知っていた

      ことが分かる遺産。春分の日と秋分の日にしか現れない影絵が有名。

  〔注3〕戦後配給制で巻き煙草が容易に手に入らなかった時、愛煙家たちは虎杖の葉を乾燥

      させ細かく刻んでパイプに詰めて吸っていた。







                                                    150301


平成26年度

一日一句 365句

   
太田 康直 さん