極北トロムソ旅日記


            その15    杉 浦  久 也  さん

3月21日(土)晴れ、曇り、雪、変化激し/-5℃

4:50ころ目覚める。窓から教会堂方面を撮る。


                    4:54

6時すぎ起床


     狭い部屋(壁に飾られたオーロラの写真が恨めしい)

朝食:Scandic Altaのバイキング朝食は質・量・種類の点で圧倒的にSydspissenに勝る。

地元の客がパンの上に鮭の燻製を山盛りに載せ、かぶりついていた。豪快な食い方だ。さっそく真似てみた。うまい。

10:50ころ散歩に出かける。オーロラの撮影場所を探すためだ。フロントの若者が教えてくれたスポットは南の谷間を流れるアルタ川流域だ。地図で見ると2〜3キロはありそうだ。あちこち探したが、すぐ住宅地内に入り袋小路になってしまう。犬の散歩をしていた女性にアルタ川方面への道を訊ねると、よく知らないと応えた。「いずれにしても、歩いて行ける距離ではありません」と言われてしまった。1キロばかり降りていくと、撮影に適した場所があった。しかし、かなり長い下り坂であるから、「いきはよいよい、かえりはこわい」ことになりそうだ。一旦部屋に戻り、軽く昼食。

午後、仮眠。

14時ころ明るかった空がみるみる黒い雲に覆われ始め、やがて吹雪となった。


       14時ころ西から黒い雲が押し寄せてきた。


           14:30ころから吹雪となった。

17時過ぎ、家内にせがまれて、この旅行中はじめてレストランで夕食を摂ることにした。試しに前菜だけ注文した。メニューの中で、面白そうな「フィンマルク県の名産づくし」が目に付いた。フィンマルク県はノルウェーの最北端の県である。



まず、トナカイの心臓の燻製、トナカイの舌と小型鯨の塩漬け、トナカイの心臓の干物、焼きたてのパンとシベリア・バター、と読めそうだ。どんなものか食べてみなければ分からぬ。ついでに赤ワインをグラス1杯付け加えた。



出てきた料理を見て驚いた。前菜ということもあるが、まずその量の少なさだ。少しずつ味わう。中には固くて、年寄りの歯にはつらいのもあるが、よく噛めば噛むほど味が出る。全体として塩味が強い。ワインと合わせて250クローネであった。明晩はもう少し腹の足しになるものを食べたい。

21時過ぎ、家内がオーロラの兆候を見つける。身支度を調え、東側の出入り口付近でカメラをセットしていたところ、パーティーの参加者と思しき人々が、異様な格好をした日本人が現れたと思ったのか、いろいろ話しかけてきた。中でも一人、熱心な男性がいて、今まで撮った写真を見せてくれとせがむ。数コマ見せると、素っ頓狂な声を上げて感心することしきり。小生早く撮りに行きたくて、うずうずしながら男の相手をする。ようやく別れを告げ、家内の居場所を求めて駐車場を横切り、木立の方へ行く。いずれにしても光の汚染がひどく、オーロラ撮影には極めて悪い環境だ。

すでに空では西の方から天頂へむけて、光の帯が伸びて複雑な動きをしている。懸命に撮影する。



           

23時ころ店じまいをして部屋に戻る。オーロラは出たものの、満足のゆく収穫はなかった。


3月22日(日)晴れ、薄曇り、夜小雪、-℃/-

6時起床

朝日がモダンな教会堂と遠くの雪山を照らしている。



朝食後、窓から南西を見下ろすと、アルタ・フィヨルドが見える。そこまで歩こうと思い、二人で出かける。

駐車場を過ぎたあたりの新雪の中に、昨夜われわれがオーロラを求めて格闘した足跡が残っていた。


               昨夜のオーロラ撮影場所

家内の携帯温度計を見るとマイナス4を示している。トロムソではあまり経験しなかった寒さだ。


                  外気温マイナス4

住宅街を通って行くと道の左手に教会の尖塔が見える。広大な敷地が一大墓地である。墓石はあまり大きくないが、それぞれ生年月日、死亡年月日、故人を偲ぶ言葉などが彫られている。



          
          2015年3月10日没と記されている。
       まだ2週間も経っていない。合掌。



               フィヨルド沿いの集落



                フィヨルド岸沿いの風景


                 アルタ・フィヨルド

トロムソでも、アルタでも、散歩していて国旗を見かけることがある。それも政府機関の建物というのではなく、一般家庭の庭先にポールを立て、その先に掲揚しているのだ。ウォーキング中の女子大生に訊いたら、これはまったく個人の自由意思で行っているもので、何か規則があるわけではない、とのことであった。





部屋に戻って休憩。午睡。

15時ころ、ホテルのレストランへ行き、食事。料理の名は忘れたが、大きなガーリックパンに魚肉のトマトソース和えであった。なかなかうまい。

となりのテーブルに母親と娘の二人連れが座っていた。娘さんが、ときどき母親に教えてもらいながら、なにやら毛糸で編んでいる。弟の帽子を編んでいる、とのことだった。「プレゼントにするんですか」と訊ねると、頷いた。二人はバスの待ち時間をこのレストランで過ごしているのであった。なんでも、ノルウェーの最南端に住んでいるとのことだった。地名は何度聞いても聞き取れなかった。娘さんは、7年生になるそうで、国費でラップランドの言葉を勉強することになっているそうだ。記念に二人の写真を撮らせてもらった。彼女たちもわれわれ二人の写真をスマホで撮り、互いにメールで交換する約束をして別れた。


                  Mona(Pia)

気になる天候の方は好転せず。一時星が真上にひとつ瞬いていたが、それも雲にかき消されてしまった。外に出てみると、小雪が顔にふりかかった。今夜もあきらめるしかないようだ。


                           「その15」終わり