極北トロムソ旅日記


            その16 (最終回)   杉 浦  久 也  さん

3月23日(月)アルタ、朝小雪/トロムソ、夕方・夜曇り、晴れ

昨夜も結局何事もなく過ぎた。

今朝メールを開くと、M先生からオーロラ大爆発のニュースとともに堀田氏の見事な写真が送られてきた。昨年もフェアバンクス滞在中に同じようなショックを受けたことを思い出す。

朝食後、トロムソ帰りの荷造りをする。

10時前にチェックアウト。

バスターミナルの小屋で待っていると、中年の夫婦がやって来た。「グッド・モーニング」と挨拶すると、奥さんの方が明るく挨拶を返した。ご主人の方は後から来て、何やらもぐもぐ言っていたがよく聞き取れなかった。二人はイギリス人でロンドンの北数十キロのところに住んでいるとのことだった。夫人が日本語を知っていると言って、1から10まで上手な日本語で数えて見せた。どこで習ったのか訊いたところ、空手道場で習ったと答えた。「黒帯ですか」と言ったら、「いや、とんでもない」と笑っていた。

バス150番トロムソ行きが来た。するとご主人の方が黙ったまま、われわれの20キロを超す大型スポーツバッグをバスまで運んでくれた。これがイギリス人男性の心意気かも知れぬ。

白髪のかなり年配の運転手が乗客一人ひとりに切符を売っていた。家内に高齢者割引の交渉を英語でさせた。上手く通じて、料金の支払いにクレジットカードを使ったところ、機械が反応しない。何回やってもだめである。小生のカードを挿入してみたが「ノー」である。カードは2枚ともマスターであった。そこで、別のヴィザのカードを試みると、無事機械が受付、支払いができた。

往路は大半が夜道となり、外の景色は余り見ることなく終わったが、今日は昼間の走行で車窓から見る景色が楽しみであった。ところが疲れが出たのか、車が走り出すや眠ってしまった。ときどき目を覚まし、窓越しに見えたのは、一面の雪景色であった。途中2時間置きにトイレ休憩があり、フェリーには往路と同様2回乗り、その後1時間くらいで懐かしいトロムソの街がフィヨルドの対岸に見えてきた。この頃になると、晴れ間から夕日が射し始め、今夜のオーロラへの期待が高まった。


                   一回目のトイレ休憩 


           真昼の太陽も低い位置にある


               フィヨルド沿いに立つ民家


               岩の壁に巨大なツララ


                 一回目のフェリー乗船


                   雪深い峠の森


          対岸に懐かしいトロムソの市街が見えた

18時ころ、シドスピセン・ホテルにたどり着いた。我が家に戻った気分だ。

軽くサンドウィッチで腹ごしらえをすると、オーロラ撮影の準備にかかる。

テレビを見て休息。シンガポールの建国の父、リー・クァンユー氏の死去をBBCのワールドニュースが報じていた。オバマ米大統領が彼の死を悼み、「歴史に残る偉人」と称えていた。


   リー・クアンユー氏の死去を伝えるBBCワールド・ニュース

問題の時刻21時すぎ、家内がかすかなオーロラの兆しを西の空に見つけた。それっ!とばかり三脚を担いで飛び出す。例の海浜公園広場にカメラをセットし撮影開始。

21時半ころまでは静かな動きをしていたオーロラが急に激しく舞い出した。






             小規模ながらオーロラの爆発だ


              数秒間光のひだが荒れ狂う


               爆発後も、奇妙な動きがつづく

オーロラを充分堪能したあと、部屋に戻りピールで乾杯。ぐっすり眠る。


今回のオーロラを求める3週間の旅も、あと1日残すのみとなりました。只今外は猛吹雪で、今夜オーロラの見える可能性はほとんどありません。本稿を以て[極北トロムソ旅日記]を締めくくることにいたします。長い間お付き合いいただいた皆様に心からお礼申し上げます。極北のトロムソから皆様のご多幸をお祈り申し上げます。


                       「その16」(最終回) 終わり