極北トロムソ旅日記


            その8    杉 浦  久 也  さん

3月13日(金)晴れ、曇り、南風強し、午後から雨、5/2

夜半過ぎせっかくの星空だ。夜通し1時間置きくらいに空の様子を窺う。ところが朝までまったくオーロラの兆しなし。

7:30起床

朝食後大阪から来たという男性(67)としばらく話をする。独身で、世界中気ままに旅をしているのだそうだ。今日こちらを出て沿岸急行船でスボルバーへ向かうとのこと。

ついでインド人母娘と話す。母の方は50代、娘の方は30代と見た。母親はアフリカのケニヤ生まれで、現在はイギリスに住んでいるとのことであった。オーロラを見るためにアラスカのチェナへも行ったことがある、と話していた。元幼稚園の先生をしていた。娘とはメールアドレスを交換して別れた。彼女らも今日チェックアウトの予定である。

このように見知らぬ人々と話をすることも、旅の楽しみの一つだ。

家内と散歩に出かける。いつもの海辺のコースを北西に進む。小公園の先まで足を伸ばす。


        薄曇り空ながら、対岸の雪山がクッキリ見える。

昨日この左側の小屋あたりから雪山の上に出たオーロラを狙った。


      海辺には海難救助用の浮き輪が常備されている。


海辺で回れ右をして来し方を見る。左端の林越しにチョコレート色のSydspissenホテルが垣間見える。


雪が溶け下敷きになっていた枯れ草が露出してきた。春の訪れだ。


     舟の格納庫らしい。屋根には草を生やしている。


           この小屋も草葺き屋根になっている。

ここから元来た道を引き返す。ホテルから1.5キロ程度か。片方だけで1キログラム以上の靴を履いての散歩は、この程度の散歩で体が温まる。

ホテルに戻り、すぐその足で先日買い物をしたスーパーへ行く。今までに飲み干したビールの空き缶11個を携えていった。リサイクルのためだ。ノルウェーにも、一昨年の3月、フィンランドのアカスロンポロに滞在した際体験したように、リサイクルに協力させる仕組みがある。

スーパーの入口の片隅に高さ2メートル、幅1メートルくらいの赤い箱型の機械が2台並んでいる。ちょうど人の目くらいの高さに直径20センチくらいの穴があいている。そこへ空き缶をいれると、ベルトコンベアーが動き出し、缶を中へ運んで行く。すると傍らの表示板に缶1個分1クローネと金額が表示される。11個全部入れると11クローネになる。ここでさらに工夫が見られる。直径2.5cmくらいの2つボタンが表示される。さて、どちらを押すか。

出かける前にフロントAngelitaおばさんが言った注意を思い出す。「ボタンを押し間違えると、お金を取られてしまうから、気をつけなさいよ。一方は福祉の協力金として取られてしまい、もう一方はあなたへの返金になるのだから。分からなかったら、誰でもいいから近くにいる人に尋ねるのよ!」

家内を機械の前に待たせ、私は近くに人がいないか見回す。幸い、20歳前後の青年を見つけた。要件を手短に伝え、どっちのボタンを押すか訊く。青年は機械から数メートル離れていたのでボタンがよく見えなかったようで、即答をためらっていた。機械の方では待ち時間が過ぎたらしく、ボタンを押さないのに返金金額を印刷したレシートが出てきた。買い物の支払いの際これをレジで出せば、11クローネ引いてくれることになっている。私はビール1ダースを買ったが、レシートを見ると確かに11クローネ引かれていた。何か得をした気分にさせる巧妙なリサイクル・システムだ。


     左二つが空き缶回収機/右の二つは空き瓶回収投入口

今夜は、アラスカ大学地球物学研究所のオーロラ予報によれば、レベル4のActive(活発)となっている。天気さえ良ければかなりのオーロラ活動が期待できるはずである。ところが、天気は悪化するばかり。雨の止む気配なし。またも忍の一字だ。

夕方、ドアをノックする人がある。誰かと思って見ると、今朝食堂で雑談を交わした大阪の男性だった。リュックを背負って戸口に立っている。要件は沿岸急行船に乗るのだが、その時刻が23時過ぎである。それまでラウンジでたった独り過ごすのも退屈だから、われわれの部屋で待せたてくれ、というものであった。彼を招き入れ、時間まで雑談で過ごした。中国で高級カメラの置き引きに遭ったとか、パタゴニアやヒマラヤでの登山体験、金閣寺の雪景色撮影等々、話題に事欠かない人物だった。22:30ころ彼は暇を告げて立ち去った。旅の安全を祈る。


                                 「その8」終わり