一　月

　１日　申年や見聞きしてはっきりもの申すさむ　〔注１〕

　２日　皺と染み（しみ）ばかりが目立つ初鏡

　３日　わらべ唄しみじみ歌ふ初湯殿

　４日　初仕事貰ひし賀状の返事書く

　５日　初詣神宮門前耶蘇神父

　６日　初暦先ずは巻き癖戻しけり

　７日　せり・なずな二つで済ます七日粥

　８日　鬼ごっこ手で独楽回し追ひかける

　９日　着膨れの爺っちゃま子犬に晴れ着着せ

１０日　雪の嶺小手をかざして仰ぎ見る

１１日　殊更に罅（ひび）割れ作り鏡割る

１２日　埋火や見せてはならじ胸の内

１３日　ラガー等の場内乱闘すがすがし　〔注２〕

１４日　古手紙投げ入れし悔ひどんど焼き

１５日　女の子に子のない名前新成人

１６日　嗚呼ああと悼むごと鳴く寒鳥

１７日　寒月や鬼手仏心に救はれし　〔注３〕

１８日　寒雷やぴりぴり玻璃戸揺るがせて

１９日　虎落笛口笛吹けぬ遺伝舌　〔注４〕

２０日　真っ二つに白菜を切り鬱を切る

２１日　一途な性（さが）我になかりし久女の忌

２２日　風ぴたと止みし雪積む夜となるらむ

２３日　大寒や空家の目立つ過疎の村

２４日　黄疸に亡母（はは）の煮詰めし寒蜆

２５日　初天神願ひをシールで覆ふ絵馬

２６日　これやこの枯野に至る細き道

２７日　じゃんけんにグー・パーのみ出す寒さかな

２８日　驚かす酸ケ湯の宿の大氷柱

２９日　鎌鼬（かまいたち）身体髪膚傷つけて

３０日　探梅や酔狂といふ狂ひごと

３１日　風邪篭り木々ががたがた震えてる

　　　　〔注１〕申年年頭所感（三猿を踏まえて）
　　　　〔注２〕あくまでフィールド内での取っ組み合い。
　　　　〔注３〕外科手術は鬼のように残酷に切り開くが、患者を救いたい仏のような
　　　　　　　　慈悲心に基いていること。
　　　　〔注４〕生まれつき巻き舌ができない遺伝的体質。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　20160101