極北トロムソ旅日記


            その17−2   杉 浦  久 也  さん

327(金)Oslo曇り

6:00起床曇り

シャトルバスを乗ろうとしたら切符の無いことに気づく。昨夜チェックインの際にもらった2枚の紙片がそれだった。部屋に引き返し屑籠の中から拾い出し、バスに駆け込む。

830空港に着く。既にSASの窓口は100メートル以上の行列だ。しかも窓口付近は黒山の人だかりである。聞くと、この窓口は5時ころから開いているそうだ。われわれはもっと早く出てくるべきであった。

9:30ころ便意を催し、家内を代わりに並ばせる。

トイレも「大」の方は行列である。散々待たされ、やっと用を足し、急いで行列に戻ると、家内の姿がない。隣に並んでいた者たちに家内について訊くが要領を得ない。困っていると、無精ひげを生やした背の高い青年が助けを申し出てくれた。事情を話すと、「あっちに並んでいるのが奥さんではないですか」とあらぬ方を指さす。何と「Bag Drop」と掲示されているチェックイン荷物専用窓口の列に並んでいるではないか。どうも前の人について行ってしまったらしい。家内を呼び戻し、青年に礼を言う。困っている人間を進んで助けるよい青年に出会えた。

1025分 なんだか、妙に疲れを感じる。隣の男性にも話しかける気がしない。とりわけ興味の湧くような話題も思いつかぬ。行列の中に立ったまま、ほとんど動かない。遥か先の黒山の人だかりにも動きが感じられない。はたしてわれわれがあの遠い窓口に行きつけるのか、心細い限りだ。途中で窓口が閉じられはしないか、心配のし通しであった。

飲み水の入ったペットボトルがふんだんに配られる。昼時になると、ピザが有り余るほど振る舞われた。

午後遅くなり、今日中の出発はないと判断し、小生例のArrival Serviceカウンターへ行き、ホテルのVoucher確保に行った。昨日追い出しを食らったラディソンを予約してくれた。Voucherを手にして、家内のいる列に戻る。

さすがに夕方近くになると、窓口がはっきり見える距離になった。窓口近くに黒い整理テープが張られ、行列の最前列にきた10名くらいずつ、テープの内側に入れられる。ときどき、どこからともなくやって来て、柵の中へ入ろうとする不届き者がいる。われわれの数名先に眼光鋭く大柄な青年が一人いて、不届き者に近づき、威厳をもって柵の外へ追い出す。周囲からその勇気に拍手が起きる。我が女房まで「ズル」を見つけると「入った!」と日本語で叫ぶ。すると、雰囲気から察するのか、かの青年がやおら立ち上がり「ズル」をつまみ出す。こんなことをしている間に、われわれも柵の中へ入ることができた。さらに30分ほどして、窓口に立ち、新しい切符を手にした。明後日コペンハーゲンから北京経由で成田へ行くのが最も早い帰国方法だと、聞かされた。ということは、オスロにこれから2泊しなければならない。

今夜の宿泊はラディソンに決まっているが、明晩の分を確保しなければならぬ。2階のホテル紹介カウンターへ行くように指示された。また行列だ。ここは比較的スムーズに処理され、30分も待たずに済んだ。既に今晩のラディソンホテルに宿泊が決まっているから、できれば明晩も同じホテルで連泊できるようにしてくれ、と要求した。しばらく電話でホテルとやり取りをしていたが、結局われわれの要求通りとなった。

チェックインすると、フロントの青年が部屋に行く前に夕食を取りなさい、と言ってくれた。あと20分でビュッフェが閉じられることになっていたからだ。久しぶりに夕食らしい夕食を食べることができた。さらにうれしいことは、大きなバスタブで湯につかることができたことだ。ゆっくり手足を伸ばす。

行列に長時間並び心身ともに疲れた。こんなときの風呂は正に至福の時となる。


3月28日(土)オスロ薄曇り

今日一日どう過ごすか。ホテルの閉じこもっているのも能がない。せっかくの機会だから市内観光をしよう。

オスロ空港駅から鉄道で市街へ行き、そこで市内観光バスツアーをするのが最も簡便な過ごし方だ。駅へ行き切符の自動販売機の前に立つ。使い方がよく分からない。困っていると、われわれの後ろに立っていた男性が懇切に教えてくれた。クレジットカードで簡単に買えた。バスと同様シニア料金があって、半額である。90クローネのところ、45クローネで行ける。


                         Oslo空港から乗った列車


                             車内


                        ゆったりとした座席

車内は広くすべての造りが頑丈でしかも洗練された形状・色彩だ。

Oslo中心街駅に着く。トイレの使用を思いつく。若い女性店員に在り処を尋ねると、構内の広い通路をまっすぐ行き、左へ曲がり、次に右へ曲がれと教えてくれた。ここのトイレは有料だった。10krだ。家内はちょうど小銭をもっていて、難なく入れたが、小生クレジットカードで払おうとして、もたついていたら、黒人の係員が来て、もういいから入って使えと言ってゲートを通してくれた。ありがたかった。

外へ出て観光案内所「i」の看板を探す。最初に見つけて入った「i」では、バスツアーの案内はしていなかった。女性職員が「広場の大きな虎の像の後ろにある大きな建物に事務所があるから、そこへ行きなさい」と教えてくれた。


                         オスロ駅前広場の虎の像

なるほど広場には大きな虎の銅像がある。その後ろとは尻尾の方向だが、そちらを見てもそれらしい建物は見つからない。あちこち探しているうちに、ちょっと奥まったところに「i」が見えた。階段を上って事務所に入るとカウンターがあり職員が2-3人で旅行客の応対をしていた。こちらの要望を伝えると、「市内観光のバスが30分後に出ます。今日はこれしかありませんから、急いで行きなさい」、と道を教えてくれた。メインストリートをまっすぐ行くと左手に市役所がある。急いで行けば15分くらいで着くという。市役所の2棟ある建物のうち、右側の棟の近くが観光バスの発着場になっている。

大汗をかきながら市役所に向かう。途中まで歩行者天国になっていた。かなり多くの人で賑わっていた。先方の高台に王宮が見える場所まで来たとき、若い女性に市役所を訪ねた。他所こら来た者で、知らない、との返事。別の青年に尋ねると、自信なげにななめ左前方を指さした。そのとき小公園の向こうに市役所のシンボルとも言える2棟が目に入った。青年の指さした方向とはかなりずれていた。

右棟の脇は比較的車の通りの少ない道路があり、そこに大型の観光バスが2台止まっていた。女性ガイドが外にいた。どちらのバスに乗ったらいいか尋ねても、はっきりした答えがなかった。つまりどちらでもよい、と言うことだ。ガイドは一人で英語、ドイツ語、ノルエー語を自由に操り、説明する。感心するばかりだ。われわれは前のバスに乗り込む。プログラムが3段階あって、われわれが選んだのは最も長時間のコースで、料金は一人390krであった。

ところが外で説明していた若い女性ガイドは後ろの車輛に乗って、先に出発してしまった。われわれが乗った車輛のガイドは15分くらい遅れてやって来た。急いでやって来たのか息を弾ませていた。ドイツ系の女性らしく、ドイツ語はまことに流暢だが、英語の方はドイツ語なまりがひどく、聞き取りにくかった。

先ず市内の有名な建物をバスの窓越しに見ながら説明を聞く。片方の耳から片方の耳へ抜けていくばかりである。初めてバスを降りたのは、ヴィーゲラン(Vigeland)彫刻公園だ。正門を含むすべての作品が名公共彫刻家ヴィーゲランの手になるものである。人間が生まれ成長し、やがて老いて死に、土となり、再び生を得て行く輪廻を見事に表現している。


                           ヴィーゲラン彫刻公園正門







               

               






                                                その17−2終わり


                                                      20150403