トロムソ便り 2016    その5

杉浦 久也 さん

北極圏内にあるトロムソは極寒の地と想像するが、実際はそうではない。メキシコ湾流のおかげで同緯度か、あるいはそれよりはるかに南の地域と比べても、異常に温暖であることに驚く。トロムソの1月平均最低気温は−6.5であるが、北極圏より160キロも南に位置するアラスカのフェアバンクスの1月平均最低気温は−27.2℃で極寒の地の名にふさわしい。トロムソは日本で言えば札幌(−7.0℃)と同程度である。この気温はオーロラ撮影に大きく影響する。

 オーロラ撮影はフェアバンクスのような寒冷地で行うことが多く、カメラの保温には苦労してきた。小生が最初にカメラの凍結を経験したのは、20年も前のことである。精進湖の辺に車を停め、翌日未明から富士を撮ろうと車の中で寝た。朝目を覚ますとカメラが白く凍っている。まったくお手上げだ。

 これに懲りて市販の保温カバーも使ってみたが今ひとつ満足できなかった。家内が試行錯誤の末、暗闇の中でも扱いやすいカバー作りに成功した。われわれ夫婦はこの防寒具をいたるところで愛用している。特に3年前フィンランドの北部アカスロンポロの−30℃にも十分耐えられることを自ら体験した。この防寒具はフリースを素材にしている。カメラの電池部分に接触する場所に使い捨てカイロを入れるポケットを内蔵していて極寒冷地でも、電力供給を保証する。

 だが、ここトロムソでは真冬でありながら、この防寒具なしでもよいくらいの気温になる。しかし気温が上がれば天気が悪くなりオーロラどころではなくなる。正直なところ、帰国前に気温がうんと下がり、晴天をもう一度呼び戻したい。防寒具の準備は万全だから。


              


 



                                                   その5 おわり


                                                      20160118