トロムソ便り 2016    その7 

杉浦 久也 さん

インターネット情報に余り頼ってはいけない、という教訓を痛感した。今夜の天気予報では18時以降午前○時まで曇り、0時から明朝6:00まで曇りとなっていた。どうせ曇りなら、オーロラなんか見えっこないと、戸外の様子も見ずにいた。それがなんと17時すぎ家内が外を見ると、すでに肉眼で容易に見えるほどオーロラの大きな動きが始まっていた。試し撮りで更に裏付けられた。因みに例のオーロラ予報(Aurora forecast)を見るとこの滞在中、もっとも強力なオーロラが現れそうだ。


 

Kp指数が5.00でトロムソどころかオスローまでもカバーする勢いだ。オーロラ楕円帯も今まで見ていた緑色だけではなく朱色を示している。


 夕食は、撮影の合間に黒パンにチーズ・ハムを挟んだサンドウィッチで間に合わせた。

 この間に一つ予期せぬ事件が発生。インターネットの接続ができなくなったことだ。パソコンによるメールのやり取りだけが家主のTage Hansenとの唯一の連絡手段である。これが途絶となれば、緊急時に対処できない。家内の提案で、まず近所の家に行き、家主との電話連絡をさせてもらい、援助を要請することにした。

 まず雪道を登り、一番高台にある家に向かった。家の外も中も電灯が点灯されている。ただ玄関に至る道が新雪に覆われたまま、人の足跡が全くないのは気がかりではあった。呼び鈴を幾度か押したが、人の動く気配がなかった。次に坂を下って100メートルほど隔たった家を訪ねた。ここでは、呼び鈴に応えて丁度私くらいの年格好の老人がドアを開けた。当方の窮状を訴えたが、きょとんとしている。どうも英語は一言も分からぬらしい。相手がボソボソいうノルウェー語は、こちらもさっぱりわけが分からない。しばらく身振り手振りで電話を借りたいと告げたが、なんとも埓があかず、引き返した。見渡したところ、ほかに家らしいものは近所に見当たらぬ。

 宿舎へもどり、インターネットの接続復旧に取り組んだ。故障の原因は、どうやら家内がカメラの三脚をひっかけるかして、無線ラン発信機のコネクターの一つを抜いてしまったことにあるらしい。外れているコネクターを挿し直しパソコンを立ち上げた。ところが接続不能。今度は、むかし自宅の無線ランが繋がらなくなったときに、街の電気屋が一度電源を全て落としてから、入れ直すように教えてくれたことを思い出した。これを実行してから、パソコンを立ち上げたら、立派に接続できた。やれやれだ。

 せっかくのオーロラ撮影の時間を野暮用に取られ残念に思いながらも、22時50分過ぎまで撮り続け、今夜の仕事納めにする。たとえオーロラが出ても、起してくれるなと家内に言って寝た。

 1時すぎ、手洗いに起きる。南の地平線上にオーロラが現れ盛んに踊っている。今回の滞在中この方角にオーロラを見たのは初めてだ。予報通りの強力なものにちがいない。私も前言を翻し、撮影の準備をして外へ飛び出す。その頃には空全体で光の乱舞が繰り広げられていた。範囲が広く、しかも動きの速さについていけない。喚声を上げながらただ眺めているしかなかった。


 


                                        トロムソ便り その7  おわり


                                                   20160121