トロムソ便り 2016    その8 (完)

杉浦 久也 さん

もともと気ままな個人旅行の好きな私どもは、食事に特別なこだわりがない。現地のものをなんでも食べる主義である。子供時代を雑食・粗食で育ったせいかも知れぬ。ところがどうしたことか、今回の旅行では、家内がフリーズドライの保存食品を中心に、日本食を山ほど買い求め、携行した。なぜかと考えるに、年を取って嗜好が変化したこともその原因の一つかもしれないが、直接の原因としては昨年の3週間に及ぶトロムソ滞在であろう。

 昨年も今回と同じシドスピッセン・ホテルに滞在した。ここは軍の施設でもあって、週末には若い新兵たちが保養にくる。一般客には、朝食のみバイキング方式で供される。昼食と夕食は街へ出て食べるか、自炊するしかない。自炊といっても泊り客が使える調理道具として、電子レンジが1台あるだけだ。そこで近くのスーパーで、火を使わずに済むチーズ、ハム、スモークサモン、パンを買い求めて食べることになる。しかしいくら好きだと言っても、3週間同じような冷たい食事を続けると、無性に暖かい日本の食べ物が恋しくなる。

 そんなわけで、ちょっと加熱したり、熱湯を加えれば食べられる日本食を持ち込んだ。ところが軍の緊縮財政方針のせいか、ホテルは昨年と事情が変わったいた。まずわれわれが当てにいていた電子レンジがなくなっていた。それに昨年はふんだんに飲めたコーヒー、紅茶の無料サービスが廃止されていた。幸いわれわれは、小型の電気湯沸かし器を持ってきていた。これは昔から海外旅行の際必ず携行している年代ものである。今回はこれがあったおかげで生き延びたようなものだ。「サトウのごはん」に即席「わかめの味噌汁」に舌鼓を打つ。「山菜おこわ」、「赤飯」、各種「丼」ものと多彩な日替わりメニューである。

 今回の旅行では最初の11日間は質素なシドスピッセン・ホテルを利用したが、最後の4日間はトロムソ・アパートメント・オッケイヴェイエンという舌を噛みそうな施設に泊まることにした。アパートメントと言っても、日本で言うアパートの概念とは程遠く、ベッドルーム2部屋、食堂、キッチン、広い居間、バスルーム、洗濯室等を備えた立派な一戸建てだ。キッチンで驚くのは業務用のコーヒーメーカーが備えてあり、ボタンを押すと豆を挽いて本格的なコーヒーが出てくる。更にワインセラーまであるのにはたまげた。当然のことながら食事は自分たちで作らねばならない。だからここへ来る直前にスーパーで4日分の食料を仕入れてきた。家内が腕を振るって料理をすると言っている。今日の昼は小生がジャガイモの皮をむき、家内が肉じゃがを作った。ビールを飲みながら美味しく頂いた。

 旅もあと2日を残すのみとなった。「トロムソ便り」もこれを以て終りとしたい。長い間拙文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


 


                                                 トロムソ便り 完


                                                      20160120