六　月

　１日　衣更え白衣の似合ふ漢方医

　２日　空海の足摺岬卯波立つ

　３日　夏帽子みるみる小（ち）さくなり行けり

　４日　十薬やおめかけさんと囃せしこと

　５日　田から田へ水の流れに乗る鯰

　６日　かび臭き書庫より啄木歌集抜く

　７日　少年の思ひ隠（こも）りて蛍籠

　８日　紋どころかざす時分た田植終ふ

　９日　山開きつひヤッホーと呼んでみる〔注１〕

１０日　夏痩せや馴染めぬ呼称准教授

１１日　人問はば病臥十日や梅雨じめり

１２日　喉元を過ぎて冷や冷や冷やそうめん

１３日　今日取らん明日や夏草伸び放題

１４日　何はさて老いの友なり茗荷の子

１５日　業平の通ひ路池鯉鮒（ちりゅう）の杜若（かきつばた）

１６日　蝉は殻（から）を裂きくちなはは殻を脱ぐ〔注２〕

１７日　かき氷青春なかりし銃後の子

１８日　戸袋は蚊を吐き雨戸は軋みをり

１９日　死にそびれしか生きそびれしか太宰の忌〔注３〕

２０日　雨を呼びホッと安堵の雨蛙

２１日　鬼ごっこ置き去りにされし麦畑

２２日　やい人工知能（エーアイ）冷酒のうま味知らんだろ〔注４〕

２３日　鴉の子親真似生ゴミ袋突く

２４日　「暑いなも」「らちかんなも」と婆二人

２５日　ででむしや我が名の直は愚直の直

２６日　蠅叩きゴキブリ退治の常備武具

２７日　草抜けば蟇（ひき）狭庭から引っ越せり

２８日　虎が雨元祖女の涙雨

２９日　長梅雨や鈴を出られぬ鈴の玉

３０日　西瓜呉れ西瓜泥棒の話聞く

　　　　〔注１〕上高地の山開きは６月の第１日曜日。
　　　　〔注２〕「くちなは」は蛇の別名。
　　　　〔注３〕太宰治は何度も自殺未遂を繰り返した挙句、心中自殺を遂げた。
　　　　〔注４〕ＡＩ（人工知能）が囲碁のトッププロ棋士に４勝１敗で圧勝したり、
　　　　　　　　短編小説に応募（星新一を冠した賞）して予選を通過したり、
　　　　　　　　とどまるところを知らない底力。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　20160601