七 月
1日 藤寝椅子胸に伏せある断捨離本
2日 一茶句に未亡人あり団扇持ち
〔注1〕
3日 もてなしの心見せばやさくらんぼ
4日 梅雨寒や見慣れし‟舛”てふ字の書けぬ
5日 侘び寂びの後の軽みや水馬(アメンボウ)
6日 草いきれ日本武の薙ぎし跡
7日 乳房高からず低からず水着の娘(こ)
8日 ドラム缶の風呂楽しかりし夏キャンプ
9日 遠泳や散骨の場を探しあぐね
10日 世渡りの幾たび外すみちをしへ
〔注2〕
11日 見ず聞かず言はざるふりの端居かな
12日 つむち゛曲げ向日葵陽を背にすっくと佇ち
13日 韋駄天のメロスのごとし日雷
14日 振り向けば青き瞳や避暑の宿
15日 遺品一つ母の残せし籠枕
16日 手花火や我にも遠き日のありし
17日 袂分かつそれも運命(さだめ)や紫陽花忌
〔注3〕
18日 裸身美女身体髪膚(はっぷ)整形痕
〔注4〕
19日 土用干大杉栄の発禁本
〔注5〕
20日 や共著者伊藤野枝あはれ
〔注5〕
21日 亡父(ちち)の酒長く鮒鮓臭かりき
〔注6〕
22日 夏座敷鴨居にモノクロ遺影かな
23日 炎天を来て立ちすくむ爆心地
24日 河童の絵書斎に吊るす餓鬼忌かな
25日 汗みどろ応援席は総立ちで
26日 くちなはや我が生蛇行に次ぐ蛇行
27日 外孫や一夏で我が丈を越し
28日 立ち話虹が割り込みひと休み
29日 風そより吹いて風鈴生き返り
30日 話聞きうべなひ顔の団扇かな
31日 穢れ多き身ながら茅の輪くぐり抜け
〔注1〕「美しき団扇持ちけり未亡人」
〔注2〕斑猫(はんみょう)の別名。夏の季語。
〔注3〕水原秋桜子の忌。師の虚子と絶縁した。
〔注4〕身体髪膚これを父母に受く、あえて毀傷せざるは孝の始めなり(孝経)。
〔注5〕書名は『クロポトキンの研究』。二人は無政府主義者として関東大震災後、
憲兵隊員によって惨殺された。
〔注6〕鮒を自然発酵させて作った近江特産品。
20160701