3月

 1日 
やよ忘るな仰げば尊しの歌と式

 2日
 イグノーベル若狭に春を招き寄せ〔注1〕

 3日 
古雛主(ひひなぬし)は米国留学中

 4日 
あはれ名をつけられてより犬ふぐり

 5日 
明日ありと肯ひ散歩へ地虫出づ

 6日 
ままごとのめおとでありし

 7日 
天命を知り自らに椿落ち

 8日 待って呉れてゐる人はなし麦を踏む

 9日 
すぐそこと言はれて遠し遍路寺

10日 
篭もり居の起き臥しに聞く遠蛙

11日 
勿忘草死なばなほ名に未練なく

12日 
暖かや煮込みうどんと‟やっとかめ”

13日 
甲斐に来て花に酔ひけり桃杏

14日 
過疎の地に遠来の客初燕

15日 
衆生多口ゆがめ哭く(なく)寝釈迦かな

16日 『山家集』紐解きしことなし西行忌〔注2〕

17日 
春耕や器用に手洟かむ農夫

18日
 宿借れば朝に枸杞(くこ)飯五加木(うこぎ)

19日 
初蝶や外出日和となりにけり

20日 
菜の花の畠の果ての海光る

21日 
人にさう名づけられしは犬ふぐり〔注3〕

22日 
里の山笑ひ伊吹嶺(ね)端然と

23日 
にんげんの恋を囃して囀れり

24日 
袈裟きらら法談長い彼岸僧

25日 
雀の子ピーチクパーチク話し好き

26日 
野遊びやおむすびと寝ころがる草〔注4〕

27日 
避(よ)けくれぬ車に浴びし春の泥

28日 
野火猛(たけ)るも老いの心に点火せず

29日 呑め歌へ花に嵐が来ぬ内に

30日 
春気分リュックに詰めてバスの旅

31日 
忽然と消ゆる汐時海市立つ


    
〔注1〕また覗きでイグノーベル賞を授与された日本人、実は若狭の名勝、
        天の橋立も股覗きで有名。
     〔注2〕西行忌は陰暦2月16日。『山家集』は彼の有名な歌集。
     〔注3〕ふぐりは古語で睾丸のこと。
     〔注4〕「野遊び」は今で言うピクニックのことで春の季語。


                                          20170301

平成28年度

一日一句 365句

   
太田 康直 さん