イエローナイフ旅日記  (1)

杉浦 久也  さん


このたびまたオーロラを求めて旅に出ることにした。日程は3月15日から4月5日までである。かかりつけの医者にこの計画を話すと、「常識ではかんがえられませんねー」と言った。何が常識か分からないが、一度しかない人生だ、体が動く限り旅をしたいものだ。ちなみに私はこの四月で85歳になる。

いつも通り、日記の形でイエローナイフの旅をご報告申し上げたい。

まず旅行目的地イエローナイフの紹介から。

カナダの西北部にあるノースウエスト準州の州都で、2011年現在の人口が2万人足らずの街である。北極圏からおよそ400キロ南にあり、北緯62℃,西経114℃に位置している。グレートスレイブ


            


湖の北岸にある。この湖は世界で10番目の面積で27200平方キロもある。琵琶湖が670.4平方キロだから、比較になあらぬ。

                                               Wikipedia より  



          イエローナイフ旅行日記   (2017/3/15〜4/5)


3/15(水)バンクーバー曇り


いつも機上では映画を楽しむことにしているが、今回は音声が明瞭でなく観る気がしなかった。代わりに持参したレコーダーでKen Follettの大作Fall of Giantsの朗読録音を聞きながら過ごした。

一眠りして、10時ころ朝食。「オカユ?エッグ?」と尋ねながら、カナダ人客室乗務員が機内食を配る。家内と共に「エッグ」を選ぶ。どろりとした卵に、ソーセージとジャガイモが添えられた料理で年寄りにはちょうどいい量である。我が家の朝飯と大差なし。

順調な飛行8時間半で、現地時間11時40分頃バンクーバー空港に到着した。実になめらかな着陸であった。相当の腕前のパイロットに違いない。

エドモントン行きの便まで3時間余の待ち時間がある。待合室でFall of Giantsの続きを聞きながら待つ。

昼食にツナサラダ入りクロワッサンサンドを2個求める。1個9カナダドル(以下ドルと略す)となかなか高い。味は上等だ。一つを二人で食べ、残りの一つは夕食用に残す。

15:55 AC244エドモントン行き離陸。雲間から下界の雪景色が散見できる。

18:18エドモントン空港に到着。1時間余り待つ。

19:30イエローナイフ行き(AC8225)離陸。一路イエローナイフへ。機上で残りのサンドを二人で分け合った食す。美味。

21:30イエローナイフ空港に到着する。タラップで地上に降りると、粉雪が地面に沿って流れるように渦巻いている。寒い。鼻毛が凍ってツンツンする。ターミナル内へ駆け込む。

ターンテーブル脇で荷物を待つ。3個のうち家内の2個は早く出てきたが、私の一つがなかなか出てこない。すべての荷物の最後になってやっと出てきた。ほっとする。

荷物をカート2台に積んでタクシー乗り場へ急ぐ。待っていた車はすべて出払い、新たな車を待つ。旅行帰りらしい若い白人女性が我々に「どちらまで?」と訊いてきた。「Bayside B&Bです」と応えると、「私もそちらに住んでいるので、タクシーをご一緒しませんか」と言ってくれた。渡りに船とばかり、ご一緒させていただく。空港から15分程度で着く。代金を支払おうとすると、「私は出張の帰りです。会社が負担してくれますから、代金は要りません」と言って、代金を受け取ろうとしない。ご厚意に感謝して別れる。

Bayside B&Bのインターフォンを鳴らす。二度目に鳴らしたところで、背の高いやせ形の男が現れる。宿の主人John Doody君であった。しゃべり方も小声で、おとなしそうな雰囲気だ。

「大変“快適な(Cosy)”キャビンを用意しております」、という。家内がインターネットの写真をみて事前に選んだ部屋でもある。つるつるに凍った小道を20メートルばかり歩いてキャビンに到着。コンビネーション・キーに4ケタの数字を打ち込み、開ける。

およそ10畳余りの部屋に大きなベッドが二つ入っており、荷物の置き場もない。整理戸棚もない。トイレは環境保護から考案されたコンポスト式のものだ。つまり水洗ではない。これが災難のはじまりとなる。小用を足すたびに、便器の下から床へ流れ出す。家内は怒り心頭だ。ジョン君が明日までには何とかしますと言って、母屋へ帰ってしまった。

部屋は電力による暖房になっているが、寒い。暖房機前面に86という数字が緑色に光っている。どうやら華氏86度らしい。もっと温度を上げようとしたが、駄目であった。生来冷え性の私は、足が冷たくて眠れぬ。オーロラ撮影の際使用する使い捨てカイロを二つ綿入れの袋に入れ足元に忍ばせる。

もう一つ気に入らぬことがある。B&BではWi-fiが快適に使える環境にある、と宣伝されていたが、一向につながらぬ。明朝ジョン君に掛け合わねばならぬ。

既に日付が変わっていた。オーロラは出そうにない。眠る。


                                                       続 く


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