七 月
1日 人の波どっと崩れて花火果つ
2日 炎昼やサッカーボールの忘れ物
3日 山椒魚旨かりしとや魯山人〔注1〕
4日 蟇(ひき)鳴くや仲間集まりガーデニング
5日 腰振って歩く女や百合の花
6日 干瓢干す宿場町兼城下町〔注2〕
7日 銀やんま幼児の宝でありしかな
8日 鬼子母神境内は混む朝顔市
9日 熊蝉の逃げるお駄賃発(た)ち小便
10日 炎々と生きまやも四万六千日〔注3〕
11日 此処をしも終(つい)の棲家と青簾
12日 夾竹桃生き恥さらす八十路かな
13日 短パンを履く癖つかず八十路かな
14日 パナマ帽子かむりし記憶つひぞなく〔注4〕
15日 祭囃子聞きつつ京の鱧料理
16日 肩落とし礼して敗者プール去る
17日 隠れ耶蘇(やそ)マリア観音像涼し
18日 行水の童でありし昔かな
19日 三山に駱駝の背を見し雲の峰
20日 冷奴薬味に刻む茗荷の子
21日 発禁の伏字の多き書を曝す
22日 端居して老いのすさびの星占ひ
23日 あぶな絵やもろ肌脱ぎの遊女ゐて〔注5〕
24日 懐しのラムネの味や妻籠宿
25日 紺碧や目立ちたがり屋のヨットの帆
26日 仏頂面崩して一献冷し酒
27日 夏料理女将きりりと割烹着
28日 際限なく8の字続く蟻の道
29日 油照り殊に憎悪のめらめらと
30日 夏座敷鴨居におはす遺影かな
31日 気の向くまま句をひねらうか夜の秋
〔注1〕『魯山人味道』より。山椒の香り漂い、すっぽんとふぐの合いの子のような上品な
味がした由。
〔注2〕広重の絵にあるように干瓢の名産地は昔は水口宿であった。
〔注3〕7月9・10日、浅草観音の縁日に立つ市。この日に参詣すると四万六千日の功徳
を授かると言う。
〔注4〕正装用の夏帽子。
〔注5〕浮世絵で春画もどきのエッチな絵。
20170701