八 月

 1日 夏休地名に残る塗師屋(ぬしや)町

 2日 幽霊のおどろおどろし夏芝居

 3日 晩夏光晩年万歳三本締め

 4日 天窓や目にくらくらと晩夏光

 5日 玫瑰(はまなす)の句に胸騒ぐ草田男忌
〔注1〕

 6日 広島忌原民喜の名伝はらず
〔注2〕

 7日 七夕や指切りしての兄いもと


 8日 産土(うぶすな)や近江に古りし墓洗ふ

 9日 な忘れそ原爆投下の地獄絵図

10日 峰雲や機銃掃射と伝単と

11日 ふるさとや流灯の川失せにけり

12日 お中元貰ひお礼の長電話

13日 悪人も混じっていよう魂迎へ

14日 家ごとの茶を断れぬ盆の僧

15日 玉音や朕知り璽(なんじ)臣民知り

16日
 灯火管制解けし八月十六日

17日 かつての日江州(ごうしゅう)音頭と盆踊り
〔注3〕

18日
 八月は喪の日の多し母の忌も

19日 八十路半ばあうらの痒(かゆ)き残暑かな

20日 
瞑想に浸るかなかな聴きながら

21日 
蟋蟀(こおろぎ)や黒人七日泊めしこと

22日 
卒塔婆に傾城の二字施餓鬼棚

23日 古着数多ある中甚平のみ愛し


24日 
少子化の過疎地の地蔵盆途絶え

25日 
鰯雲焦土を彷徨(さまよ)ひ歩きしこと

26日 
ばあばにも鬼灯鳴らす過去在りし

27日 蟷螂(かまきり)やちょっかいに手向かひてくる


28日 赤とんぼ故郷(くに)を失ひ幾久し

29日 茨(いばら)の実口数減ってもへらず口

30日 かなかなや無言の別れの場面(シーン)に鳴く

31日 再校了(お)ふ一日一句の九月分


  
〔注1〕中村草田男の忌日。代表作の一つに〔玫瑰や今も沖には未来あり〕がある。
   〔注2〕被爆体験を小説『夏の花』で発表。後、鉄道自殺。
   〔注3〕尾州(尾張)、三州(三河)と同様、江州は近江のことで、私の産土(出生地)である。
   〔注4〕

                                             20180801

      平成30年度

一日一句 365日

   
太田 康直 さん