十　月

　１日　花野道いはくありげなくねくね道

　２日　赤のまま女子（おなご）とばかり遊びゐし

　３日　ホスピスに送られ露と消しなまし

　４日　足湯して萩を愛でゐる下山客

　５日　濃竜胆失意慰め呉れしかな

　６日　白桔梗少女のバレリーナのごとし

　７日　ゐのこづちお供に家までついて来し

　８日　出航の銅鑼の音霧に包まれて

　９日　菊の香や遺族の涙笑む遺影

１０日　とろろ啜る百まで生きる面構へ

１１日　早熟の娘爪染めてゐし鳳仙花

１２日　新蕎麦や山葵（わさび）に鼻を蹴飛ばされ

１３日　林檎の皮切らさず剥けし老いてなほ

１４日　秋風や美人骸骨になり果てし

１５日　日本の秋合掌造りの藁の屋根

１６日　来し方を振り返りつつ新酒酌む

１７日　生家寺の高き梢や銀杏散る

１８日　佐渡おけさ新酒を仕込む杜氏かな

１９日　蔓引けばぞろぞろ真っ赤な烏瓜

２０日　秋晴れや婚荷に青竹添へ持参〔注１〕

２１日　身に沁むや泣きべそ通りにある飲み屋

２２日　本丸を降りてまぶしき秋の空

２３日　秋うらら吉里吉里国に籍を得し〔注２〕

２４日　神無月戻るな貧乏神様よ

２５日　蛇穴に老いの果てなる家篭り

２６日　晩秋や目と耳病んで爪は割れ

２７日　実の生らず破れ放題の芭蕉かな

２８日　さやうなら手を振り狭霧に消え行きし

２９日　八十路坂今下りなり紅葉谷

３０日　敗荷（やれはす）や老いては落ち武者のごとし

３１日　ハロウイーンの乱痴気騒ぎに眉ひそめ

　　〔注１〕届け先で割って持ち帰れないようにする風習
　　〔注２〕井上ひさし作『吉里吉里人』は、岩手県大槌町吉里吉里に独立国家を
　　　　　　樹立するという奇想天外な実験小説

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　20191001