平成22年度
一日一句 365句
六 月
1日 老刀自の背筋の伸びや衣替へ
2日 虹二重女嫌ひの神あらじ
3日 冷素麺一本の赤漂流す
4日 大きな種二つ抱へし枇杷の鬱
5日 妾宅とおぼしき垣根薔薇匂ふ
6日 穀象の陣取りし米櫃も消え〔※1〕
7日 鯉になる夢見て目高放たれし
8日 走ることも流さるることもあめんぼう
9日 UFOを信じる人や蛇苺
10日 時の日や柱時計の止まりをり
11日 梅雨湿り立川談志のしゃがれ声〔※2〕
12日 田植機や跡取りおほかた跡取らぬ
13日 蚊帳の中籠から放つ星幾つ
14日 蟇(ひき)と住み時に独りで遠出する
15日 サングラス母の血を継ぐ白そこひ
16日 伏字ある書を曝し老いの身をさらす
17日 いちはつや日坂宿の夜泣き石〔※3〕
18日 父の日や父の貌脱ぎ独り酌む
19日 おどけ顔鏡に映す太宰の忌
20日 長き貨車動き遠目に蟻の列
21日 かき氷きのふの旅のはや古りぬ
22日 粒選りのさくらんぼ載せ皿光る
23日 茗荷の子得て蕎麦つゆの改まり
24日 図書館に寝に行く老いの多く夏至
25日 信号機の青のジョガーの影涼し〔※4〕
26日 ほととぎす目鼻欠けたる野の仏
27日 八つ当たりしても団扇はどこ吹く風
28日 逢引てふ粋な語ありし業平忌
29日 白百合も人も野にあるままぞ良き
30日 汗拭ひつひでに眼鏡の球も拭く
〔※1〕以前米櫃の中を群でうごめいていた体長2ミリほどの甲虫。
〔※2〕4月13日糖尿病を克服して高座復帰。
〔※3〕東海道日坂宿内の小夜の中山沿いにある伝説の石。
〔※4〕横断歩道用の信号機の青の時の人影。
220601