月


 1日 爽やかや運転免許証返上

  2日 天高し戦ひ続く棒高跳び

  3日 りんご剥く独楽の模様のごとく剥く

  4日 やは肌に紅さす志野を愛でて秋

  5日 道端の猫じゃらし子ら触れもせで

  6日 白露や切手に湿す旅の文 

  7日 冷まじや机に彫られし「消えろ」「死ね」

  8日 杉玉を替へて新酒の祝ひかな

  9日 ここからはわが国の空鳥渡る

 10日 年寄りの種目は玉入れ運動会   

 11日 学食といふ語のありし馬肥ゆる

12日 竹の春嵯峨野祇王寺寂光院

13日 バス停に峠口あり紅葉狩 

 14日 (たく)(だい)や忠弥の露の命跡 〔※1〕

 15日 案山子立つみごとなへのへのもへ字貌

 16日 閑けさや茶房にひびくししおどし

 17日 藁葺きやすだれのやうな吊るし柿

 18日 数珠玉や昔の渡しのありし跡

 19日 木の実拾ふ子らの心になり拾ふ

 20日 古道ここに絶えて茂みの烏瓜

 21日 村おこし案山子の扮装コンクール

 22日 露けしや遠野の里の貸しバイク

 23日 秋夕焼け晩年見えて来る気配

 24日 夕霧や僧呑みこんで門残る

 25日 独り居や居間寝屋厨冷え冷えと

 26日 遠くにて鹿の鳴きゐる湯宿かな

 27日 芒野や帽に余りし黒き髪

 28日 意地張って見栄張って秋深きかな

 29日 釣瓶落し落としどころのなき会話

 30日 頬杖を突きて秋思を抱え込み

 31日 身に沁むや「ノイローゼ」てふ名の油彩〔※2〕


〔※1〕東海道沿い、品川宿の外れの「鈴ケ森刑場跡」に残るのが、
    「火炙台」と「磔台」。「火炙台」では八百屋お七等が焼き殺され、
    「磔台」では丸橋忠弥等が吊り上げられ磔(はりつけ)にして殺された。

〔※2〕島田章三展を見て




231001


平成23年度

一日一句 365句

   
太田 康直 さん