十 二 月
1日 灯台に続く道あり野水仙
2日 一輪の侘助一壜の陀羅尼助
3日 炬燵中足蹴り合ってゐる二人
4日 ポマードは昭和の匂ひ木の葉髪
5日 物臭さともぐさと河豚とふくれ面
6日 驚かす朝刊配る人の咳き
7日 冬凪や近江の海けふ波立たず
8日 開戦日父の忌またジョン・レノンの忌
9日 我が庭は猫の通ひ路漱石忌
10日 牛鍋と呼んで開化に親しめり
11日 北風や紙屑を弄びをり
12日 湯豆腐や格別な喉越の味
13日 四面楚歌舌一枚の寒さかな
14日 義士の日や降りて汚名を負ひし人
15日 ボロ市や捨て得ざるもの捨てしもの
16日 白黒をつけぬ生き方狸汁
17日 捉えどころなき人横に牡蛎啜る
18日 ひと言に十倍返る寒さかな
19日 きっぱり脱ぎ一糸纏はぬ裸の木 〔注1〕
20日 鮟鱇や吊るしたき奴今はなく
21日 煤逃げや亡母(はは)のおんぶ紐見つけ
22日 熱燗や小半(こなから)二本で良しとする 〔注2〕
23日 風呂吹やあるがまま老い受け入れて 〔注3〕
24日 泣き、笑ひ、怒り上戸や年忘 〔注4〕
25日 歳末や過疎地に残る何でも屋
26日 詩想涸れ玉梓の賀状試みる〔注5〕
27日 ためらひつつ三年日記買ひにけり
28日 餅搗きや懐かしき名のおくどさん
29日 シクラメン買ひささやかな年用意
30日 年越せぬ偽悪のお面被らねば
31日 大晦日演歌に淫(いん)と艶(えん)と怨(えん)
〔注1〕すっかり葉が落ちてしまった木のことで、冬の季語。
〔注2〕「小半」は二合半。
〔注3〕冬季の熱々の食べ物。
〔注4〕季語で忘年会のこと。
〔注5〕「玉梓」は手書きの便りのこと。
231101
平成23年度
一日一句 365句
太田 康直 さん