三 月
1日 卒業や竹馬の友もちりぢりに
2日 ままごとの恋を取り持つ土筆かな
3日 雛壇やオリンピックといふ舞台
4日 白木蓮空の青さを見てをりぬ
5日 囀や手垢のつかぬ語を探し
6日 蛇穴を出てより草書めく日かな
7日 畑打ちや腰のラジオの声の割れ
8日 春嵐遠出のプラン壊しけり
9日 生きる杖求め遍路の杖を突く
10日 蝶羽根を閉ぢ紙切れとなってをる
11日 嗅覚の衰へ知りし沈丁花
12日 老いぬれば辛党蓬餅も食べ
13日 かぎろひや大和三山恋敵
14日 ふらここ漕ぐ少年の目になりて漕ぐ
15日 涅槃絵や声にならざる呻き満ち
16日 蝌蚪群れてひそひそ密議凝らしをり
17日 争ひの絶えぬ仲なり山笑ふ
18日 うららかや彼岸縄手てふ名の地蔵〔注1〕
19日 花辛夷樹間に大いなる遅速
20日 婉然と笑みをり椿落ちてなほ
21日 春の雲お空をのったりお散歩中
22日 ふと菫見つくる道祖神巡り
23日 山椒の芽を煮る香り庫裏に満ち
24日 海女陸に戻り安堵の息を吐く
25日 菜の花や無人の駅の時刻表
26日 春月や低くでっかくまん丸く
27日 たんぽぽの笑ひ渦巻きはひふへほ
28日 春雨に濡れに出歩く風狂人
29日 上着腰に巻いて花見の客となり
30日 花筵陣取りはやくもしてありぬ
31日 仲直り下手な夫婦や花の冷え
〔注1〕尾張六地蔵の一つ。一宮市今伊勢町にある。
231101
平成23年度
一日一句 365句
太田 康直 さん