研究成果がんの新薬に

上田龍三さん:国内最高峰の賞受賞

         

高松宮妃癌研究基金学術賞を受賞した名古屋市病院局長の上田龍三さん=三木幸治撮影

 名古屋市病院局長の上田龍三さん(67)が、難病の成人T細胞白血病(ATL)の治療法を確立したことが評価され、がん研究で国内最高峰の「高松宮妃癌(がん)研究基金学術賞」を受賞した。市局長と名古屋市立大大学院教授の「二足のわらじ」をはき、休み返上で公務と研究に没頭。今月末には研究成果を反映した新薬が承認される見込みだ。上田さんは「がん治療に貢献するために仕事をしてきた。感無量です」と笑顔を見せる。

 上田さんは03年、ATL患者のがん細胞表面に特定のたんぱく質が多数現れることに着目。このたんぱく質と結合することでがんを弱める抗体の威力を強化する研究を進め、製薬会社と連携して新薬開発に力を注いだ。08年には長崎大の研究者らと臨床試験を行い、完成した新薬を患者26人に投与したところ、8人のがん細胞がなくなったほか、5人の症状が改善した。新薬はATL患者にとって初の効果的な治療法になるという。

 研究の傍ら、有識者として市立病院改革に関わった。08年には初代の市病院局長に就任。累積赤字が百数十億円に上る市立5病院の経営改善に取り組み、民間への譲渡など大なたを振るっている。局長就任後は、夕方に市役所を出て大学に行き、深夜まで研究に取り組む日々だ。土日も市職員に指示を出し「病院局で最も働いている」との声も。

 上田さんは局長就任を「正直、迷った」と振り返る。だが今は「施策を作り、市民・議会に理解してもらう作業は新たな視野を与えてくれた。産官学のネットワークを作る上でも役立った」と研究への波及効果を語る。

 病院改革は道半ばだ。「市民が本当に求める病院、医師や看護師が『働きたい』と思える病院にしたい」と意欲を語る。加えて「実は新しい研究も進んでるんだよ」とも。多忙な日々は当分続きそうだ。【三木幸治】


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                  20120317k0000e040223000c.html