クロマグロ 完全養殖に挑む双日  

2012.3.18 18:00

 その希少性から「海のダイヤ」と呼ばれるクロマグロ。安定供給を狙って養殖事業に参入する企業が相次いでいるが、大手商社で先陣を切ったのは双日だ。平成20年9月に世界有数の漁場として知られる九州・玄界灘にマグロ養殖事業の子会社「双日ツナファーム鷹島(たかしま)」(長崎県松浦市)を設立。「鷹島ブランド」としてアジアなど世界市場での販売を虎視眈々(たんたん)と狙っている。

 双日は日本のマグロの年間輸入量の約10%の3万トンを取り扱う大手商社。養殖事業にいち早く参入したのは、中国など新興国の需要増でクロマグロなど高級マグロの乱獲が進み、枯渇に危機感を抱いたためだ。同社食品部水産第一課の半沢淳也課長は「海外からの供給は減ることはあっても増えることはない。養殖事業は水産資源を安定調達する商社の役割」と話す。

 養殖事業の仕事場は大海原。好立地の漁場として双日が白羽の矢を立てたのが九州の玄海灘に浮かぶ鷹島だった。

 鷹島の沖合は潮通しが良く、サバやアジなどのマグロの餌の宝庫だ。養殖マグロの餌は冷凍ものが普通だが、「ここでは1年の半分以上が刺し身として食べられる生のサバなどが手に入るため、質の高いマグロが出荷できる」と、双日ツナファーム鷹島の宮崎誠尚社長は胸を張る。

 鷹島の冬の海水温も良質なマグロの身をつくるのに一役買っている。冬は12度前後と養殖場が多い奄美大島周辺と比べると低い。この水温の低さが身を引き締め、皮下脂肪を蓄える。

 こうした条件が奏功し、鮮魚専門店などのプロからの評判は上々だ。東京都内の百貨店やスーパーを中心に鮮魚専門店を出店する東信水産は「養殖まぐろにありがちな生臭さがない。また、脂ののりがよく、身の色も変色しずらい」(織茂信尋常務)という。22年12月に初出荷し、23年度は160トン、24年度は200トンを見込んでいる。

 会社立ち上げ時の事業成否のカギは地元漁業と連携できるかどうかだった。保守的な漁協の牙城を崩すのは容易ではないが、思わぬ追い風も吹いた。新松浦漁協も高齢化による廃業が後を絶たないのが最大の悩み。思い切って民間のノウハウを活用することで生き残りを図ろうと、民間企業の加入を認めてくれたのだ。漁協の全面支援を得ることで、生きの良い餌の調達も可能になった。

 双日の強みの一つは、冷凍マグロの買い付けから販売を行う子会社のトライ産業(静岡県清水区)をはじめとする全国の販売網だ。つまり、脂の乗り具合など消費者が求めるマグロの豊富なニーズを養殖事業に生かせる点だ。

 養殖クロマグロの最大の魅力はその価格競争力にある。海外からの冷凍輸入マグロよりも若干高いが、日本近海で獲れた国産クロマグロと比べると4分の1から5分の1程度と安い。季節や天候条件もあり、単純比較は難しいが、日本最高のブランド品の青森県大間産のマグロが、1キロ当たり1万5千〜1万8千円で取引されるのに対し、国内養殖クロマグロは3500〜4千円と手頃だ。

 いまや国内マグロ養殖事業は、日本水産やマルハニチロホールディングス、日本ハムなど水産・食品会社をはじめ、三菱商事や豊田通商といったライバルの総合商社も続々参入している。養殖マグロは天然マグロと違い、産地によるブランド化が難しく価格の差がつきづらい。競争が厳しくなる中で、生き残るには「ブランドの確立が決め手になる」(半沢課長)という。

 双日が「鷹島ブランド」をさらに高めようと挑んでいるのが完全養殖だ。21年から日本で初めて卵から孵化(ふか)させたクロマグロの完全養殖に成功した近畿大学と共同研究に取り組んでいる。早ければ来年度中にも完全養殖のクロマグロの出荷を開始する予定。また、東京海洋大学などと共同で身質が良くなる新しい餌の研究にも着手した。

 双日は将来、「鷹島ブランド」を世界ブランドとして販売するのを目標に据えている。そのため昨年12月には国内養殖事業者で初めて食品安全マネジメントシステムの国際規格「ISO22000」の認証も取得した。

 半沢課長は「時間がかかるかもしれないが、食文化を広めるためにも成し遂げたい」と意気込んでいる。(松元洋平)

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 【双日ツナファーム鷹島】双日が設立したマグロ養殖事業の全額出資子会社。資本金は3億円。九州・玄界灘に浮かぶ鷹島(長崎県)の沖合500メートルに設置した大型のいけすで、500グラム程度のマグロの稚魚を2年かけて30キログラムを超える成魚に育てる。マグロを1キログラム太らせるには10キログラムのエサが必要とされ、良質なマグロを育てるには生きの良いエサの確保が欠かせないとされる。22年12月に出荷を開始。23年度は160トン、24年度は200トンを見込んでいる。

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                     120318/biz12031818000005-n1.htm