米大ヒット、特殊部隊映画の中身

娯楽の枠超え…実態詳しすぎで批判

2012.3.17 20:00 米国

     

          映画「Act of Valor」の1シーン(AP)

 米海軍が特殊部隊SEALS(シールズ)への入隊志願を促すため製作させた映画「Act of Valor」(勇敢な戦闘行動)が米国で大ヒットし、話題になっている。俳優だけでなく、本物のシールズ隊員が登場し、パラシュート降下や銃撃の腕前を披露する。これでは娯楽でなく軍のプロパガンダ、シールズの情報を見せ過ぎ、といった批判も出ているという。

本物の特殊部隊が出演

 「Act of Valor」は2月24日に公開され、米メディアによると、その週末(〜26日、アカデミー賞の発表・授賞式があった週末でもある)、2470万ドル(約19億7600万円)を稼ぎ出し、興業成績でトップに躍り出た。

 シールズはグリーンベレーやデルタフォース(いずれも陸軍)と並び称される米軍の最強部隊。SEA(海)、AIR(空)、LAND(陸)と陸海空の頭文字から命名。その名の通り、陸海空を問わずに偵察、監視、非正規戦などの特殊作戦を遂行する。昨年5月、パキスタンで、国際テロ組織アルカーイダ指導者、ウサマ・ビンラーディンを急襲、殺害し、脚光を浴びた。今年1月にはソマリアで、武装勢力の人質になっていた米国人女性ら2人の救出に成功。映画は格好のタイミングでの公開となった。

 麻薬組織に誘拐された米中央情報局(CIA)の要員の救出にあたるシールズ部隊が作戦の過程で、米国を狙ったおそろしいテロ計画の存在を発見する。出演者には「シールズの現役隊員」が含まれるが、シールズのすべての隊員がそうであるように、個々の氏名は非公表だ。

ベトナム戦争で不仲に

 業界ネット誌の編集者、ジョーダン・ザカリン氏が米公共ラジオ(NPR)などに語ったところによると、米国防総省(ペンタゴン)とハリウッドとの付き合いは古く、1927年の無声映画「Wings」にさかのぼる。第一次大戦のパイロットが主人公で、戦闘機などの装備が米軍によって提供された。この作品は第1回アカデミー賞作品賞を受賞している。

 第二次大戦中、政府は戦争遂行への世論の支持を得るため、ハリウッド映画を重視。プロパガンダ色の濃い映画が多数、製作された。しかし、ベトナム戦争当時(1960年代、70年代)は、反戦ムードの広がりを背景に、ハリウッドは国防総省と“不仲”になった。「プラトーン」(86年)のオリバー・ストーン監督(65)らは軍と一緒に仕事をするのを嫌った。再接近の契機となったのは、トム・クルーズ(49)主演の「トップガン」(86年)。この映画の大ヒットで、ハリウッドは軍と組めばもうかることを知ったのだという。

真の成功は志願者増

 ワシントン・ポスト紙によると、国防総省の2006年の「4年ごとの国防計画見直し報告」(QDR)は、シールズの隊員が500人程度不足すると指摘した(シールズは全体では約2500人とみられている)。海軍はシールズへの入隊志願を促す必要性に迫られ、勧誘活動の一環として映画製作が計画された。「Act of Valor」はスコット・ウォー、マイク・マコイの両氏が監督。2人はかつて、海軍の短いドキュメンタリーを撮ったことがあり、本物のシールズ隊員を出演させることを提案し受け入れられた。

 ポスト紙は、この映画は娯楽の枠を超え軍のプロパガンダになっているとの批判が出るだろうと指摘。一方、クリスチャン・サイエンス・モニター紙は、秘密であるシールズの実態が詳しく描かれていることへの懸念が議会関係者から国防総省に寄せられたと伝えている。


 (編集委員 内畠嗣雅(うちはた・つぐまさ)/SANKEI EXPRESS


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                     120317/amr12031720010005-n1.htm